54 / 61
4
11
しおりを挟む
ゴトン、という大きな揺れに、メイベルは目を覚ました。だが、意識が覚醒しても気怠さから瞼が重く、なかなか開かない。それでも何とか目を開けたのだが、何度瞬きをしても目の前が真っ暗だった。
「んっ……?」
寝そべっていた身体を起こそうとするが、上手く動けない。そこで自分が後ろ手に縛られている上、猿轡までされていることに気付いた。そして、気を失う直前に起きた出来事が、フラッシュパックする。
メイベルはすぐに首を巡らせ辺りを見渡した。暗さに慣れてきて、うっすらとだが周りの様子が見てとれる。傍らに同じく縛られ、猿轡をされたクラリアの姿を見つけた。
足が縛られていなかったのは幸いだったと言えるだろうか。とはいえ、嗅がされた薬の影響なのか若干の痺れが身体に残っている。それでも何とか上半身を起こしたメイベルは、クラリアの側へにじり寄った。暗くて顔色は分からなかったが、吐息が聞こえたことにメイベルはホッと胸を撫で下ろす。そして改めて周囲を見渡した。
二人がいるのはどうやら馬車の中のようだ。さっきからガタゴトと振動が絶えず身体に響いていることから、移動中なのだろう。乗り口は一つ。全体が大きな一つの箱のような形をしている。だが、座席はなく二人は板張りに寝かされていた。窓もあるようだが、暗幕がかけられていて外の様子は見えない。きっと夜中なのだろうが、月明かりさえ入ってこないため、いったいどこを走っているのか検討もつかない。
と、身体が前につんのめった。反射的にクラリアに覆い被さったメイベルは、しばらくして馬車が速度を落としたのたのだと気付く。振動が徐々に小さくなって、やがて完全に馬車が停まる。何か外で話す声がする。メイベルは息を潜めて耳をそばだててみるが、さすがに何を話しているかまでは聞こえない。
どれくらい気を失っていたのだろう。納屋から国境まではそんなに時間はかからないはずだ。クロードはメイベルが残した目印に気づいただろうか。けれど、気付いたとしてメイベルたちがここにいることをどうやって知らせればいいのだろう。
そういえば、最初に声をかけてきた男性。彼は自警団の制服を着ていた。あれは国境での検問を通過しやすくするためだったのだろうか。
「申し訳ございません、奥方様は御気分が優れないとお休みになられていて……」
唐突に聞こえた声に、メイベルの肩がビクリと震える。近付いてくる足音から、誘拐犯が御者台を降りたのだろうと理解した。そして扉が遠慮がちにノックされた。
「お休みのところ申し訳ございません。国境警備の者が、奥方様の素性をお疑いのようで……」
「い、いや。滅相もない。侯爵家の奥方様とはつゆ知らず、大変失礼を致しましたっ」
侯爵家、奥方、という単語にメイベルは目を見張る。だがそれよりも、誘拐犯がノックをして声をかけてきたことに驚く。まだメイベルが薬で眠っていると思っていたのだろうか。
猿轡のせいで声は出ない。だが、ここでそのまま国境を抜けてしまうわけにはいかないのだ。
―――ガンっ!
「何の音だ?」
力一杯、メイベルは壁を蹴った。不安定な体制で行ったため反動で身体がひっくり返る。だが、その甲斐あって、おそらく国境警備の者が音に反応してくれたようだ。
「んっ……?」
寝そべっていた身体を起こそうとするが、上手く動けない。そこで自分が後ろ手に縛られている上、猿轡までされていることに気付いた。そして、気を失う直前に起きた出来事が、フラッシュパックする。
メイベルはすぐに首を巡らせ辺りを見渡した。暗さに慣れてきて、うっすらとだが周りの様子が見てとれる。傍らに同じく縛られ、猿轡をされたクラリアの姿を見つけた。
足が縛られていなかったのは幸いだったと言えるだろうか。とはいえ、嗅がされた薬の影響なのか若干の痺れが身体に残っている。それでも何とか上半身を起こしたメイベルは、クラリアの側へにじり寄った。暗くて顔色は分からなかったが、吐息が聞こえたことにメイベルはホッと胸を撫で下ろす。そして改めて周囲を見渡した。
二人がいるのはどうやら馬車の中のようだ。さっきからガタゴトと振動が絶えず身体に響いていることから、移動中なのだろう。乗り口は一つ。全体が大きな一つの箱のような形をしている。だが、座席はなく二人は板張りに寝かされていた。窓もあるようだが、暗幕がかけられていて外の様子は見えない。きっと夜中なのだろうが、月明かりさえ入ってこないため、いったいどこを走っているのか検討もつかない。
と、身体が前につんのめった。反射的にクラリアに覆い被さったメイベルは、しばらくして馬車が速度を落としたのたのだと気付く。振動が徐々に小さくなって、やがて完全に馬車が停まる。何か外で話す声がする。メイベルは息を潜めて耳をそばだててみるが、さすがに何を話しているかまでは聞こえない。
どれくらい気を失っていたのだろう。納屋から国境まではそんなに時間はかからないはずだ。クロードはメイベルが残した目印に気づいただろうか。けれど、気付いたとしてメイベルたちがここにいることをどうやって知らせればいいのだろう。
そういえば、最初に声をかけてきた男性。彼は自警団の制服を着ていた。あれは国境での検問を通過しやすくするためだったのだろうか。
「申し訳ございません、奥方様は御気分が優れないとお休みになられていて……」
唐突に聞こえた声に、メイベルの肩がビクリと震える。近付いてくる足音から、誘拐犯が御者台を降りたのだろうと理解した。そして扉が遠慮がちにノックされた。
「お休みのところ申し訳ございません。国境警備の者が、奥方様の素性をお疑いのようで……」
「い、いや。滅相もない。侯爵家の奥方様とはつゆ知らず、大変失礼を致しましたっ」
侯爵家、奥方、という単語にメイベルは目を見張る。だがそれよりも、誘拐犯がノックをして声をかけてきたことに驚く。まだメイベルが薬で眠っていると思っていたのだろうか。
猿轡のせいで声は出ない。だが、ここでそのまま国境を抜けてしまうわけにはいかないのだ。
―――ガンっ!
「何の音だ?」
力一杯、メイベルは壁を蹴った。不安定な体制で行ったため反動で身体がひっくり返る。だが、その甲斐あって、おそらく国境警備の者が音に反応してくれたようだ。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく
おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。
そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。
夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。
そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。
全4話です。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる