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7 ※クロード目線
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クラリアの靴がここにあったなら、もし納屋にいなくともこの辺りを捜査すべきだ。他の者に知らせに戻ると申し出てくれた同僚にクラリアの靴を託し、メイベルのリボンは胸ポケットにしまう。
納屋までは一本道。走り出したクロードの後を、オリーブがピッタリとついてくる。獣人の足ならその距離はすぐだ。
道の脇にポツリと建つ木造の納屋を見つけ、クロードは歩調を弛めた。辺りを見渡すが、人の姿はない。
「人の気配はありませんね……私、一応周りを見てきます」
報告が上がっている事件への警戒からだろう。クロードに聞こえるくらいの声音で囁いたオリーブが、サッと姿を消す。クロードも警戒体制を解かずに納屋へと近付いた。雨音で分かりづらいとはいえ、納屋の中に人がいるならば、近付けば吐息は聞き取れる。だが、何の音も聞こえない。
入り口は一つだけ。様々な道具が放置されているだけなので、窓もない。扉を開いたが、案の定、中には誰もいなかった。あったのは長らく放置され腐りかけた木箱と農機具。そしてガラス部分の割れたランプが一つ。
「クロードさん!」
緊迫したオリーブの声を背中越に聞きながら、クロードは割れたガラスを手に取った。指先から僅かに伝わる熱は、彼女が数分前までここにいたことを示している。
「ここにいた。メイベルも、クラリアも」
「ええ。雨で痕跡が消えかかっていますが、外に轍がありました。犯人は馬車で二人を拐ったようですね」
「……知らない男の臭いもする」
懐かしささえ感じる二人の匂い。それに混じる男の臭いはどうやら人族のようだ。消えかけてはいるが、ツンと鼻を刺すのは何かの薬品か。拐われた二人を想い、クロードは胸をかきむしりたくなるほどの焦燥感を覚える。
「でも、血の臭いはしません。少なくとも怪我はしていないようですね」
「ああ。かすり傷でも負わせていたら、ただじゃおかない」
そうでなくとも、何の罪もない二人を拐ったのだ。許せるわけがない。
納屋を出ると、丁度こちらへ駆け寄ってくる姿があった。
「クロード、何か分かったか?」
「二人はここにいて、何者かに拐われたようだ」
同僚の言葉に答えながら、クロードはオリーブを見る。その視線にオリーブは国境へと続く道を指差した。
「馬車だと思われる轍がそこに。恐らく隣国へと逃げるつもりでしょう」
「ここを離れてからそんなに時間は経っていないはずだ」
「そうか。なら、馬で追いかければ間に合うだろう」
ハリのある声が響き、全員が視線を向ける。二頭の馬を引き連れて現れた自警団団長は、ニカリと不敵に笑った。
「姫君たちを奪還するぞ!」
「はっ!」
団長の掛け声に部下たちは力強く応える雨が降り頻る中、彼らは国境へと向け走り出した。
納屋までは一本道。走り出したクロードの後を、オリーブがピッタリとついてくる。獣人の足ならその距離はすぐだ。
道の脇にポツリと建つ木造の納屋を見つけ、クロードは歩調を弛めた。辺りを見渡すが、人の姿はない。
「人の気配はありませんね……私、一応周りを見てきます」
報告が上がっている事件への警戒からだろう。クロードに聞こえるくらいの声音で囁いたオリーブが、サッと姿を消す。クロードも警戒体制を解かずに納屋へと近付いた。雨音で分かりづらいとはいえ、納屋の中に人がいるならば、近付けば吐息は聞き取れる。だが、何の音も聞こえない。
入り口は一つだけ。様々な道具が放置されているだけなので、窓もない。扉を開いたが、案の定、中には誰もいなかった。あったのは長らく放置され腐りかけた木箱と農機具。そしてガラス部分の割れたランプが一つ。
「クロードさん!」
緊迫したオリーブの声を背中越に聞きながら、クロードは割れたガラスを手に取った。指先から僅かに伝わる熱は、彼女が数分前までここにいたことを示している。
「ここにいた。メイベルも、クラリアも」
「ええ。雨で痕跡が消えかかっていますが、外に轍がありました。犯人は馬車で二人を拐ったようですね」
「……知らない男の臭いもする」
懐かしささえ感じる二人の匂い。それに混じる男の臭いはどうやら人族のようだ。消えかけてはいるが、ツンと鼻を刺すのは何かの薬品か。拐われた二人を想い、クロードは胸をかきむしりたくなるほどの焦燥感を覚える。
「でも、血の臭いはしません。少なくとも怪我はしていないようですね」
「ああ。かすり傷でも負わせていたら、ただじゃおかない」
そうでなくとも、何の罪もない二人を拐ったのだ。許せるわけがない。
納屋を出ると、丁度こちらへ駆け寄ってくる姿があった。
「クロード、何か分かったか?」
「二人はここにいて、何者かに拐われたようだ」
同僚の言葉に答えながら、クロードはオリーブを見る。その視線にオリーブは国境へと続く道を指差した。
「馬車だと思われる轍がそこに。恐らく隣国へと逃げるつもりでしょう」
「ここを離れてからそんなに時間は経っていないはずだ」
「そうか。なら、馬で追いかければ間に合うだろう」
ハリのある声が響き、全員が視線を向ける。二頭の馬を引き連れて現れた自警団団長は、ニカリと不敵に笑った。
「姫君たちを奪還するぞ!」
「はっ!」
団長の掛け声に部下たちは力強く応える雨が降り頻る中、彼らは国境へと向け走り出した。
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