人外さんと恋をする〜狼さんは怖くない〜

鈴屋埜猫

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5 ※クロード目線

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「オリーブ」
「人族は弱いんですもの。仕方ないわ。でも、私たちが危険を犯して助けても、亜人なんだから痛みも感じないんだろう、みたいに。さも助けられるのが当然みたいな顔をして!」

「メイベルはそんな子じゃない」

「ああ、みんなに愛される優しい方ですものね。でもそうやって誰かれ構わずヘラヘラして。そのくせいつもいつも、クロードさんの匂いを纏っているのが気に入らないんです」

「一緒に暮らしているんだ。匂いくらい移る」

「本当にそれだけですか?」
「だから何が……」

 ドン、と胸元に感じた衝撃。振り向いたと同時に体当たりさながら抱き着いてきたオリーブを、クロードは反射的に引き剥がした。

「あの子の匂いがいつもより強い……」
「……」

 驚愕しているオリーブの放った呟きに、クロードは昨夜の情事を思い出す。共に生活しているのだから、僅かに匂いが残ることはある。だが、時間と共に薄れて行くものだ。

 それをずっと寂しいと思っていた。彼女の匂いを自分に移し、自身の匂いを彼女に刻みつけたいと。その欲望を抑えきれなくなって、彼女が無事だと肌で感じたくて思うままに彼女に触れた。たとえ最後まではしていなくても、あれだけ密着していたのだ。仕事の前にシャワーは浴びているが、匂いは完全に取り切れていないだろう。

「どうして……まさか、マーキングを?」

 呆然と呟かれた言葉に一瞬戸惑う。マーキングとは亜人が気に入った相手に付ける自分の証のことを言う。いわば人族の貴族間で行われる婚約のようなもので、相手の同意のもと、生涯の伴侶と決めた相手に付ける。種族によって異なるが、ほとんどが情事の際に行われる。

「あなた程の人が、人族の子に本気で?」
「それは……」

 クロードが口を開きかけた、その時。

「いた! クロード!」

 鋭い刃のように耳に突き刺さった緊迫した声。オリーブもハッと我に返ったように、声のした方へと視線をやった。

 駆け寄ってきたのは自警団の同僚だ。険しい表情にただならぬことが起こったのかと身構える。

「大変だ。今、君のとこのビルが来て、クラリアちゃんが帰って来ないらしい」

「クラリアが? ビルは今どこに?」
「ビルは自警団の詰所で預かってる。クロードに知らせて来いとメイベルちゃんに言われたらしくて」

 同僚の説明に、クロードの目が剣を孕んでいく。

「……メイベルは?」
「先に孤児院に戻ったらしい。村の男衆もそっちに向かったそうだから、団長たちは村の中を探している」

「分かった。孤児院に向かう」

 ビルのことも心配だが、詰所にいるなら安全だろう。他の子供たちのことも気がかりだ。なにより、クラリアがただ迷子になっているだけならいいが、聡い子だ。迷子になるということは考えにくい。となると、このところ頻繁している件が気になるところだ。

 駆け出したクロードの後を、同僚たちもついてくる。空には暗雲が立ち込め、雨の匂いが風に乗って吹き付けてきた。

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