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4 ※クロード目線
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ジョゼ村は小さな村だ。とはいえ一周ぐるりと周るだけでもまぁまぁな時間がかかる。だが、これも自警団の大切な仕事だ。
村の巡回を頻繁にすることで、助けを求める声に素早く対応もできる。さらに、自分たちが目を光らせているぞ、と示すことで犯罪の抑止力になる。
「今日も平和ですね」
「平和なことは良いことだ」
斜め後ろを歩くオリーブの声に、クロードは辺りに目を光らせながら応える。
「だが、警戒は怠らないに越したことはない。元に、近隣の村で報告が上がっているだろう」
「子供たちが姿を消しているって話でしたね」
亜人の人権が認められて久しく、表面的には亜人と人族は共に手を取り合い、仲睦まじく暮らしている。だが、未だ完全には亜人への偏見は拭えず、差別はなくなることはない。
一時は亜人の排除を目論む人族の過激派が、亜人の子供だけを狙うという事件も横行した。だが、数日前に入ってきた報告では、被害者は亜人のみならず人族も含まれている。
「孤児院の子たちが心配ですか?」
無意識に孤児院のある丘に向けていた視線を指摘され、クロードはオリーブへと目を戻す。
「世話になっているからな」
「それだけですか?」
含みのある言葉に引っ掛かりを覚え、クロードは眉を顰める。
「……何が言いたい?」
「クロードさんの心配の種は、子供たちではなく彼女でしょう?」
オリーブの言葉に、クロードの目元がピクリと震えた。だが、前を見えているオリーブは気付かず、言葉を続ける。
「彼女、川に飛び込むなんて無謀なことするし……」
「メイベルは心優しい子だ。目の前で困っている人を放っておけない」
「でもそれで自分の身を危険に晒しては本末転倒では? 目が離せない子供……いえ、まるで歩き始めた赤ちゃんみたい」
「彼女は子供たちの面倒を一人で見ている。立派な大人だ」
「クロードさんって過保護です? ああ、でも彼女がそうさせるのかしら? 庇護欲を掻き立てるタイプですものね。何か特殊なフェロモンでも出してるの?」
「さっきから君は……何が言いたい?」
足を止めたクロードは、オリーブの肩を掴む。数歩先で同じく足を止めたオリーブは、こちらを向こうとはしなかった。
「……クロードさんが自警団の宿舎に寝泊まりしないのは何故です?」
「孤児院の子供たちが心配だからだ」
「心配なのはあの子のことが、でしょう? 本当にずるい子。親がいなくて、その上、一人で八人の面倒を見て大変だ、可哀想だと村のみんなから大事にされている。大した力もない人族のくせに」
村の巡回を頻繁にすることで、助けを求める声に素早く対応もできる。さらに、自分たちが目を光らせているぞ、と示すことで犯罪の抑止力になる。
「今日も平和ですね」
「平和なことは良いことだ」
斜め後ろを歩くオリーブの声に、クロードは辺りに目を光らせながら応える。
「だが、警戒は怠らないに越したことはない。元に、近隣の村で報告が上がっているだろう」
「子供たちが姿を消しているって話でしたね」
亜人の人権が認められて久しく、表面的には亜人と人族は共に手を取り合い、仲睦まじく暮らしている。だが、未だ完全には亜人への偏見は拭えず、差別はなくなることはない。
一時は亜人の排除を目論む人族の過激派が、亜人の子供だけを狙うという事件も横行した。だが、数日前に入ってきた報告では、被害者は亜人のみならず人族も含まれている。
「孤児院の子たちが心配ですか?」
無意識に孤児院のある丘に向けていた視線を指摘され、クロードはオリーブへと目を戻す。
「世話になっているからな」
「それだけですか?」
含みのある言葉に引っ掛かりを覚え、クロードは眉を顰める。
「……何が言いたい?」
「クロードさんの心配の種は、子供たちではなく彼女でしょう?」
オリーブの言葉に、クロードの目元がピクリと震えた。だが、前を見えているオリーブは気付かず、言葉を続ける。
「彼女、川に飛び込むなんて無謀なことするし……」
「メイベルは心優しい子だ。目の前で困っている人を放っておけない」
「でもそれで自分の身を危険に晒しては本末転倒では? 目が離せない子供……いえ、まるで歩き始めた赤ちゃんみたい」
「彼女は子供たちの面倒を一人で見ている。立派な大人だ」
「クロードさんって過保護です? ああ、でも彼女がそうさせるのかしら? 庇護欲を掻き立てるタイプですものね。何か特殊なフェロモンでも出してるの?」
「さっきから君は……何が言いたい?」
足を止めたクロードは、オリーブの肩を掴む。数歩先で同じく足を止めたオリーブは、こちらを向こうとはしなかった。
「……クロードさんが自警団の宿舎に寝泊まりしないのは何故です?」
「孤児院の子供たちが心配だからだ」
「心配なのはあの子のことが、でしょう? 本当にずるい子。親がいなくて、その上、一人で八人の面倒を見て大変だ、可哀想だと村のみんなから大事にされている。大した力もない人族のくせに」
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