人外さんと恋をする〜狼さんは怖くない〜

鈴屋埜猫

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 クロードから病人と言われたことを思い出し、メイベルは頬に軽く触れてみる。いつもよりも僅かに体温が高い気がする。

「寝ていろと言ったろ」

 呆然としていると、お叱りの声が飛んできた。お盆を抱え入ってきたクロードは、後ろ手でドアを閉め、こちらへと歩いてくる。洗面器を奥に寄せてお盆を置くと、近くに置いてあった椅子を引き寄せて座る。その椅子も確か居間にあったはずのものだ。

 首を捻るメイベルに、クロードがカップを差し出す。温かな湯気を立ち上らせる焦茶色の液体から漂う甘い香りが、鼻をくすぐった。

「え、ココア?」
「嫌いか?」
「いえ、好きですけど……ありましたっけ?」

 ココアなんて贅沢品、この孤児院では常備していない。すると、クロードは何でもないことのように答える。

「団長がくれた」
「ああ、団長さんが」
「昼間、君の見舞いに来てくれたらしい」
「そうなんですか、昼間……昼間?」

 疑問が解決しかけたと思ったら、また新たな疑問が浮上する。ココアに口をつけようとして止めたメイベルに、クロードはまず飲め、と促す。言われるがまま一口飲むと、温かな甘さが口の中に広がり、ホッと息を吐く。

「君は熱が出て、一日寝込んでいた」
「……うそぉ」
「当たり前だろう。川には雪解け水が流れ込んでいる。春先の川に飛び込むなんて、風邪をひいて当然だ」

 クロードが頬に触れてくる。自分の体温が高いからか、ヒンヤリとした手のひらが心地いい。

「まだ熱いな……」
「クロードさんは? それにあの子……」

 自分と少年を引き上げてくれたのはクロードなのだろう。彼だってずぶ濡れになったはずだ。

「また君は人の心配ばかり……」

 心配だったから聞いただけなのに、何故か大きなため息を吐かれてしまった。少しムッとしていると、鼻をぎゅっと摘まれる。

「なっ……」
「俺は平気だ。あの子もすぐに処置できたから心配いらない」
「良かった……」
「君はこのところ働きすぎだったからな、疲れが一気に来たんだろう。食欲はあるか?」
「いえ……」

 ココアを飲んだことで、空腹感はそこまでない。首を横に振ると、クロードはそうか、と言いながらお盆を指す。

「少しでも食べた方がいいだろうと持ってきた。オリーブからの見舞いだ」

 ドクンと心臓が音を立てる。何故だろう、オリーブの名前を聞いただけなのに胸が騒めく。皿に盛られた小さな赤い実を美味しそうだと思うのに、手に取るのは憚られた。

「完全に熱が引いたわけじゃない。それを飲んだら大人しく寝ろ」

 ポン、と頭を撫でてクロードが立ち上がる。メイベルは反射的に離れようとしていたその手を掴んでいた。
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