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「……ルシアスから、結婚を申し込まれました」
ポロリと溢れた言葉に、前を歩くクロードの耳がピクリと動く。メイベルからは彼の顔は見えない。沈黙がやけに長く感じられた。
「……そうか」
足を止めることもなく、そう言った彼の声がやけに冷たく感じる。メイベルは重い空気を跳ね飛ばすように、ワザと明るく笑った。
「でも、今更何だって感じですよね。これまで顔を合わせれば喧嘩してたのに。それなのに突然、好きだとか……」
「君には、彼が嘘を言っているように聞こえたのか?」
「それは……」
クロードの冷静な声に口籠る。
正直、素直に信じられる訳ではない。だが、ずっと自分たちは仲が悪いと思っていたのだ。彼が何かと突っかかって来るのは、メイベルが気に入らないからだと。嫌いだからなのだと思っていた。だが、それがもし、違ういうのなら……。
「彼はずっと君を想っていたよ。少なくとも、俺が来たばかりの頃からは」
「そう、なの……?」
そんなの初耳だ。クロードが来たのは半年前だ。その頃にはすでに、ルシアスはメイベルを好きだった?
「彼なら君を守ってくれるだろう」
たぶん彼には何気ない一言だっただろう。だが、突き放すようなその言葉が、メイベルの心に重く突き刺さる。
と、同時に気付いてしまった。なんてことだ。恋心を自覚したと同時に、メイベルは失恋したのだ。
一体、何を期待していたのだろうか。一緒の家に住んでいようと、一緒にご飯を食べていようと、自分たちの間には結局何もないというのに。
「俺のことは心配いらない。自警団の宿舎に行けばいいから」
クロードの声が遠くに聞こえる。メイベルは自分が上手く返事ができたかも分からぬまま、ただ彼の後を歩き続ける他なかった。
ポロリと溢れた言葉に、前を歩くクロードの耳がピクリと動く。メイベルからは彼の顔は見えない。沈黙がやけに長く感じられた。
「……そうか」
足を止めることもなく、そう言った彼の声がやけに冷たく感じる。メイベルは重い空気を跳ね飛ばすように、ワザと明るく笑った。
「でも、今更何だって感じですよね。これまで顔を合わせれば喧嘩してたのに。それなのに突然、好きだとか……」
「君には、彼が嘘を言っているように聞こえたのか?」
「それは……」
クロードの冷静な声に口籠る。
正直、素直に信じられる訳ではない。だが、ずっと自分たちは仲が悪いと思っていたのだ。彼が何かと突っかかって来るのは、メイベルが気に入らないからだと。嫌いだからなのだと思っていた。だが、それがもし、違ういうのなら……。
「彼はずっと君を想っていたよ。少なくとも、俺が来たばかりの頃からは」
「そう、なの……?」
そんなの初耳だ。クロードが来たのは半年前だ。その頃にはすでに、ルシアスはメイベルを好きだった?
「彼なら君を守ってくれるだろう」
たぶん彼には何気ない一言だっただろう。だが、突き放すようなその言葉が、メイベルの心に重く突き刺さる。
と、同時に気付いてしまった。なんてことだ。恋心を自覚したと同時に、メイベルは失恋したのだ。
一体、何を期待していたのだろうか。一緒の家に住んでいようと、一緒にご飯を食べていようと、自分たちの間には結局何もないというのに。
「俺のことは心配いらない。自警団の宿舎に行けばいいから」
クロードの声が遠くに聞こえる。メイベルは自分が上手く返事ができたかも分からぬまま、ただ彼の後を歩き続ける他なかった。
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