人外さんと恋をする〜狼さんは怖くない〜

鈴屋埜猫

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 メイベルの目の前に、再び花束が差し出される。これを受け取ったら、返事をしたことになるのだろうか。

「お前が俺をよく思ってないのは分かってる。けど、俺はお前が好きだ。誰にも取られたくない」
「私、物じゃないわ」
「そうだな、悪い」

 ルシアスから素直な謝罪が返ってくるなど初めてではないだろうか。驚くメイベルに、彼は少し居心地悪そうに顔をしかめる。

「返事を急ぐつもりはない。だが……脅すみたいで悪いが、父がここを閉めると言い出してる」
「え?」
「老朽化も酷いしな。教会は建て直すつもりらしいが、孤児院は……そのまま閉めていいだろうと」
「そんなっ」
「もちろん子供たちの行き先が決まってからの話だ。だが、そうなったらお前はどうする?」

 どうすると言われても、頭が追い付かない。文字通り真っ白だ。

「アイツと……一緒になる気か?」
「あ、あいつ?」
「獣人の……」
「クロードさんは、そんなんじゃ……」
「なら、俺とのこと考えてみてくれ。俺が、お前を守るから。俺のところに来い」

 ズイっと押し付けられるがまま、花束を受け取る。ルシアスはそのまま踵を返し、行ってしまった。護衛の二人は少し離れたところにいたらしく、メイベルが見ていることに気付くとこちらに軽く会釈し、慌てた様子でルシアスの後を追って行った。

「メイー? どしたの?」

 ポカンとしていると、背後で声がした。振り返ると双子が手を繋いでメイベルを見上げている。先に声をかけてきたのは姉のエミルだ。

「あ、お花だ!」

 目敏く花束を見つけて指差したのは妹のミリア。共に四歳である。

「そのお花、どうしたの?」
「あ~……うん」

 答えに窮していると、ルーカスを片腕に抱いたクロードと目が合ってしまった。特に何があるわけでもないのに、何となく視線を逸らしてしまう。

「さ、ご飯にしようかっ」

 たくさんの視線が突き刺さる。その中に混じる青い瞳を意識的に避けながら、メイベルは朝食の準備に取りかかった。
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