29 / 61
3
1
しおりを挟む
いつもの朝。子供たちを起こし、朝食の用意を進めていたメイベルは遠慮がちなノックの音にため息を吐いた。
「……次期領主様は、朝からお暇なのね」
「お前……っ」
ドアを開け、予想した通りの人物が立っているのを確認してさらにため息を吐く。ここ数日、毎朝訪ねてくるものの、何をするでもなくメイベルに追い返される領主の息子、ルシアスは目を眇める。
だが、いつもは続いて飛び出すはずの嫌味が、今日は出てこないらしい。メイベルは彼の表情がどことなく思い詰めているように見えて、眉を顰めた。
「どうしたの?」
「え?」
いつもの喧嘩腰ではなく、比較的優しく問いかけたメイベルに、ルシアスは目を見開く。動揺している彼の顔をマジマジと見て、メイベルは彼の容姿が整っていることに気付いた。
顔を合わせれば言い合いになるため、容姿やらなんやらに気が向かないのだ。年頃の娘たちがキャーキャー言っているのをいつも信じられない思いで見ていたが、なるほど、とメイベルは頷く。
「アンタ、そんな顔してたのね」
「そんなって何だよ」
「整った顔?」
首を傾げながら言うと、ルシアスが絶句する。村一番と謳われた母親譲りの綺麗な顔は、黙っていればいい男だと思う。
「美人のお母様に似て良かったわね」
もちろん父親である現領主がブサイクというわけではない。だが、彼はいささか厳つい顔つきだ。中性的な甘いマスクとは程遠い。
「整ってる……? 美人……?」
ボソボソと何か呟いているルシアスの頬が、ほんのりと赤く色付いて見えるのは気のせいだろうか。
「で、ご用件は?」
「あ、ああ」
別に毎回蔑ろにしていたつもりもないのだが、朝の忙しい時間に来られてこちらも余裕がないのだ。用事があるならさっさと言え、と暗に急かすと、メイベルの目の前に花束が差し出される。
「……次期領主様は、朝からお暇なのね」
「お前……っ」
ドアを開け、予想した通りの人物が立っているのを確認してさらにため息を吐く。ここ数日、毎朝訪ねてくるものの、何をするでもなくメイベルに追い返される領主の息子、ルシアスは目を眇める。
だが、いつもは続いて飛び出すはずの嫌味が、今日は出てこないらしい。メイベルは彼の表情がどことなく思い詰めているように見えて、眉を顰めた。
「どうしたの?」
「え?」
いつもの喧嘩腰ではなく、比較的優しく問いかけたメイベルに、ルシアスは目を見開く。動揺している彼の顔をマジマジと見て、メイベルは彼の容姿が整っていることに気付いた。
顔を合わせれば言い合いになるため、容姿やらなんやらに気が向かないのだ。年頃の娘たちがキャーキャー言っているのをいつも信じられない思いで見ていたが、なるほど、とメイベルは頷く。
「アンタ、そんな顔してたのね」
「そんなって何だよ」
「整った顔?」
首を傾げながら言うと、ルシアスが絶句する。村一番と謳われた母親譲りの綺麗な顔は、黙っていればいい男だと思う。
「美人のお母様に似て良かったわね」
もちろん父親である現領主がブサイクというわけではない。だが、彼はいささか厳つい顔つきだ。中性的な甘いマスクとは程遠い。
「整ってる……? 美人……?」
ボソボソと何か呟いているルシアスの頬が、ほんのりと赤く色付いて見えるのは気のせいだろうか。
「で、ご用件は?」
「あ、ああ」
別に毎回蔑ろにしていたつもりもないのだが、朝の忙しい時間に来られてこちらも余裕がないのだ。用事があるならさっさと言え、と暗に急かすと、メイベルの目の前に花束が差し出される。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる