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「どうした」
漏れてしまったため息に、クロードが振り返る。気付かれないよう抑えたつもりだったメイベルは驚く。
「何でも……」
「さっきもそう言っていたな」
青い瞳が探るように見つめてくる。つい目を逸らすと、腰を折り曲げた彼はメイベルの顔を覗き込んだ。
「近っ……」
「やっぱり疲れてるんだろう」
彼の湿った鼻先がメイベルの鼻に触れてしまいそうなほど近くなる。思わず一歩後退ると、彼は折り曲げていた腰を伸ばした。
「すまん。怖がらせた」
「いえ……」
首をブンブンと横に振りながら、オリーブと同じ言葉を発した彼に胸がツキリと痛む。メイベルがクロードを怖がることなどあり得ないのに。
思えば、最初に出会った時からすでに彼を怖いとは思わなかった。
あれは半年前の嵐の夜。徐々に強くなっていく雨と風に、いつもより早く『白猫亭』での仕事を終えたメイベルは孤児院のガラス窓に木の板を打ち付けて回っていた。古くて所々にガタはきているものの、嵐が来る前に雨漏りの修繕は終えていてる。隙間風は入るが、一番怖いのは窓ガラスが割れることだ。
雨除けの外套を着ていても意味がない程、ずぶ濡れになりながら作業を続け、メイベルは最後に教会の方へと向かった。石造りの教会の窓ガラスには鎧戸が付いている。朝の内にそれらは全て閉めている。あと残るは出入り口がしっかりと閉まっているかどうかだ。
確認を終えて、メイベルが足早に孤児院の方へ歩き出そうとした、その時だった。耳をつん裂くような音と昼間のような明るさに包まれた。一瞬の出来事。メイベルの立っているところからわずか数メートル。教会の側に聳え立っていた大木が真っ二つに裂け、火を吹いていた。
「っ……」
驚きと恐怖で動けなくなる。そんなメイベルに向かって、裂けた木が倒れ込んでくる。その光景がやけにゆっくりとして見える。だが、逃げなければと頭では思っているのに、足が震えて動けなかった。
漏れてしまったため息に、クロードが振り返る。気付かれないよう抑えたつもりだったメイベルは驚く。
「何でも……」
「さっきもそう言っていたな」
青い瞳が探るように見つめてくる。つい目を逸らすと、腰を折り曲げた彼はメイベルの顔を覗き込んだ。
「近っ……」
「やっぱり疲れてるんだろう」
彼の湿った鼻先がメイベルの鼻に触れてしまいそうなほど近くなる。思わず一歩後退ると、彼は折り曲げていた腰を伸ばした。
「すまん。怖がらせた」
「いえ……」
首をブンブンと横に振りながら、オリーブと同じ言葉を発した彼に胸がツキリと痛む。メイベルがクロードを怖がることなどあり得ないのに。
思えば、最初に出会った時からすでに彼を怖いとは思わなかった。
あれは半年前の嵐の夜。徐々に強くなっていく雨と風に、いつもより早く『白猫亭』での仕事を終えたメイベルは孤児院のガラス窓に木の板を打ち付けて回っていた。古くて所々にガタはきているものの、嵐が来る前に雨漏りの修繕は終えていてる。隙間風は入るが、一番怖いのは窓ガラスが割れることだ。
雨除けの外套を着ていても意味がない程、ずぶ濡れになりながら作業を続け、メイベルは最後に教会の方へと向かった。石造りの教会の窓ガラスには鎧戸が付いている。朝の内にそれらは全て閉めている。あと残るは出入り口がしっかりと閉まっているかどうかだ。
確認を終えて、メイベルが足早に孤児院の方へ歩き出そうとした、その時だった。耳をつん裂くような音と昼間のような明るさに包まれた。一瞬の出来事。メイベルの立っているところからわずか数メートル。教会の側に聳え立っていた大木が真っ二つに裂け、火を吹いていた。
「っ……」
驚きと恐怖で動けなくなる。そんなメイベルに向かって、裂けた木が倒れ込んでくる。その光景がやけにゆっくりとして見える。だが、逃げなければと頭では思っているのに、足が震えて動けなかった。
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