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忙しく立ち回っていれば、思考はそっちに持っていかれて余計なことは考えなくても済む。
だが、無情にもメイベルを現実に引き戻したのはマリリンの声だった。
「メイベル、お迎えが来たわよ」
仕事の上がり時間にも気付かず動き回っていたメイベルに、マリリンが微笑む。見れば、薄く開いた勝手口の向こうにシルバーグレーの尻尾か見え隠れしている。
「今日もありがとう、メイベル。助かったわ」
「いえ、全然」
エプロンを外していると、二人は何故かニヤニヤと笑い出す。
「でも、まさに忠犬って感じよねぇ」
「甲斐甲斐しいこと。よっぽどメイベルか心配なのね」
「あれは過保護なだけじゃないわよねぇ?」
「それはねぇ、あんなに匂いでマウント取っといて、ねぇ?」
顔を突き合わせコソコソ話をするように口元を手で隠しているが声はしっかりと聞こえている。
「じゃあ、お先に失礼しますっ」
冷やかしの言葉を遮るように二人に頭を下げ、足早に勝手口から出る。壁に背を預けて立っていたクロードが、飛び出してきたメイベルに驚いたのか目を丸くしている。
「どうした」
「いえ、何でも……お待たせ、しました」
「ああ……帰るか」
頷いて、先立って歩き出したクロードの後に続く。目の前で左右にゆらゆらと揺れているシルバーグレーの尻尾を見ながら、思い出すのはオリーブのこと。
自警団のメンバーはあれからしばらくして帰っていった。オリーブは赴任してまだ日は浅いながら他の団員たちに既に溶け込んでいるようで、時折楽しげな笑い声が聞こえてきていた。
美しい毛並みに明るい人柄、褒められて照れる姿は愛らしいのに、スラリとした背丈に制服がよく似合っていた。カッコいいのに可愛い獣人。
チラと見上げたクロードの頭は、同い年の子たちと比べても小柄なメイベルからすれば遥か上にある。だが、背の高いオリーブならば彼の隣に並んでも釣り合いが取れる。種族の違いの違いをまざまざと見せつけられた気がする。
だが、無情にもメイベルを現実に引き戻したのはマリリンの声だった。
「メイベル、お迎えが来たわよ」
仕事の上がり時間にも気付かず動き回っていたメイベルに、マリリンが微笑む。見れば、薄く開いた勝手口の向こうにシルバーグレーの尻尾か見え隠れしている。
「今日もありがとう、メイベル。助かったわ」
「いえ、全然」
エプロンを外していると、二人は何故かニヤニヤと笑い出す。
「でも、まさに忠犬って感じよねぇ」
「甲斐甲斐しいこと。よっぽどメイベルか心配なのね」
「あれは過保護なだけじゃないわよねぇ?」
「それはねぇ、あんなに匂いでマウント取っといて、ねぇ?」
顔を突き合わせコソコソ話をするように口元を手で隠しているが声はしっかりと聞こえている。
「じゃあ、お先に失礼しますっ」
冷やかしの言葉を遮るように二人に頭を下げ、足早に勝手口から出る。壁に背を預けて立っていたクロードが、飛び出してきたメイベルに驚いたのか目を丸くしている。
「どうした」
「いえ、何でも……お待たせ、しました」
「ああ……帰るか」
頷いて、先立って歩き出したクロードの後に続く。目の前で左右にゆらゆらと揺れているシルバーグレーの尻尾を見ながら、思い出すのはオリーブのこと。
自警団のメンバーはあれからしばらくして帰っていった。オリーブは赴任してまだ日は浅いながら他の団員たちに既に溶け込んでいるようで、時折楽しげな笑い声が聞こえてきていた。
美しい毛並みに明るい人柄、褒められて照れる姿は愛らしいのに、スラリとした背丈に制服がよく似合っていた。カッコいいのに可愛い獣人。
チラと見上げたクロードの頭は、同い年の子たちと比べても小柄なメイベルからすれば遥か上にある。だが、背の高いオリーブならば彼の隣に並んでも釣り合いが取れる。種族の違いの違いをまざまざと見せつけられた気がする。
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