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 キッチンに戻ったメイベルは苛立ちを抑えきれず、拳を振り上げる。だが、それを振り下ろす先を見つけきれず大きくため息を吐いた。

「何なのかしら、本当。嫌味だけ言いに来たわけ? 腹立つっ」
「彼も悪気があったわけじゃないさ」
「悪気がない? ありまくりじゃないっ! なんでクロードさんが酷いこと言われないといけないの?」
「亜人に対してよく思わない人もいるってだけだ。俺は見た目からして、人族と違いすぎるからな」
「村には他にも亜人さんたちはいるわ。みんないい人だし、クロードさんは自警団に入ってみんなを守ってくれる立場の人よ?」
「それでもやっぱり怖いもんは怖いんだよ、仕方ないさ。それにたぶん……彼は別の理由で俺が気に入らないんだ」
「アイツが気に入らないのは私たちの存在よ。昔から何かについて『孤児のくせに』って突っかかって来たもの。孤児の何が悪いの? みんな好きで孤児になったわけでもないのに。自分より立場が弱い奴をいじめて、優越感に浸ってるだけだけのバカより全然いいじゃないっ」
「メイベル、落ち着けって。みんながビックリしてる」
「あ……」

 トン、と肩に置かれた温もり。見上げると、いつの間にか隣に立っていたクロードの青い瞳が見下ろしている。彼がつい、と巡らせた視線を追うと、キッチンの入口に子供たちの頭が覗き縦に連なっていた。

「ああ、ごめん」

 一番下にいる最年少のルーカスの目に浮かぶ涙を見て、メイベルは駆け出す。飛び出して来たルーカスを抱き止め、小さな頭を優しく撫でた。

「またアイツが来たの?」

 ぞくぞくと飛び出して来た子供たちの中で、ビルが一際険しい顔をしている。メイベルは安心させるように笑って見せる。
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