人外さんと恋をする〜狼さんは怖くない〜

鈴屋埜猫

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「あ、クロードさん。おかえりなさい」
「じゅ……獣人……」

笑顔のメイベルと、驚愕に目を見開くルシアスを青い瞳が交互に見る。自警団員だと示す紺色の制服に身を包み、きちんと後ろ足二本で立っているもののその全身はシルバーグレーの毛並みに覆われている。

 手のひらは人間のそれと同じく五本の指が並んでいるが、顔は動物そのもの。大きな口元が印象的な狼の獣人であるクロードは、半年ほど前にこの孤児院の一員になった。

「領主の息子だな。何か問題でも?」
「お、お前たち、何故こいつを止めないんだっ」
「そう、おっしゃられましても……」
「彼は自警団の一人ですし」

 ルシアスは彼から距離をとるように、じりじりと後ずさる。彼に怒鳴られた、護衛の二人は顔を見合わせている。護衛をするのが彼らの仕事とはいえ、自警団の制服を着ているクロードを止める理由はない。

 この世界には人族以外の種族が数多存在するが、それぞれの種族は長らく一線を画して暮らしていた。それが近年、人族が王権を握るバーセラ帝国でも彼らにも人権が認められた。

 メイベルたちが暮らすジョセ村はバーセラ帝国の北の端に位置し、隣国との国境が近い。そのため元々旅人が多く行き来する地だったのだが、だんだんとその中に亜人も含まれるようになり、今では村に移住してくる亜人も増えた。ジョセ村には亜人が営む店があるほど、彼らの存在は身近になりつつある。その一つが、メイベルが夜働いている宿屋だ。

 だが、国から人権が認められているからと言って、長らく人族のみで構成されていたバーセラ帝国民全員がすんなりと亜人を受け入れられた訳ではない。
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