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メイベルの朝は早い。
教会に併設された孤児院には、男女合わせて八人の子供たちがいる。その子たちの世話を一手に引き受けるメイベルもまた、この孤児院で育った。
まだ空が暗いうちに目が覚めるのは、長年の習慣だからだろう。起きたらまずメイベルがしなくてはならないことは、寄り添うように眠る年少組筆頭の泣き虫、ルーカスを起こさないようにベッドから降りることだった。そうっと身体を離しつつ、すぐ側にあるフカフカのクッションを代わりに差し込む。一瞬、ビクリと震えた少年は、クッションにおでこを擦り付けながら規則正しい寝息を立てている。
寝癖がつき、ボサボサになった髪をすいてやりたいが、起こしてはいけないので我慢する。ベッドから降り、薄暗い部屋の中を物音を立てないように進む。この部屋にいるのはメイベルを含めて六人。最年少のルーカス以外は全員女の子。つまりここは女子部屋なのだが、まだ三歳のルーカスは幼く、夜泣きもするためメイベルが側に付いている。
「メイ……?」
「あ、ごめんね。起こした?」
傷みが酷い古い家屋は、どんなに気を付けて歩いても、床板が軋む。出入り口に一番近い二段ベッドの一階で寝ている孤児院の子供たちの中で最年長のミーネが目を覚ましてしまったようだ。
「まだ寝てて良いよ」
「……ううん、起きるよ」
最年長といっても、彼女はまだ九歳。こんな朝早くまだ寝ていたいだろうに、責任感の強い子だ。起き上がったミーネの頭を撫でながら、メイベルは他の子達を起こさぬよう彼女にだけ囁く。
「じゃあ、ルーカスのことお願い。時間になったらみんなを起こしてくれる? 男子部屋は私が行くから」
「うん……」
寝ぼけているようではあるが、しっかり頷いた彼女の頭をもう一度撫でて、まだ寝ている双子の姉妹とクラリアを起こさぬよう女子部屋を出る。
しんと静まり返った廊下を抜け、突き当たりのドアを開けると洗面所だ。他の子達の身の回りのものはそれぞれのロッカーにしまわれているが、メイベルの持ち物は洗面所に収納されている。棚の中から引っ張り出した黒いワンピースに着替え、勝手口から外へ出た。
教会に併設された孤児院には、男女合わせて八人の子供たちがいる。その子たちの世話を一手に引き受けるメイベルもまた、この孤児院で育った。
まだ空が暗いうちに目が覚めるのは、長年の習慣だからだろう。起きたらまずメイベルがしなくてはならないことは、寄り添うように眠る年少組筆頭の泣き虫、ルーカスを起こさないようにベッドから降りることだった。そうっと身体を離しつつ、すぐ側にあるフカフカのクッションを代わりに差し込む。一瞬、ビクリと震えた少年は、クッションにおでこを擦り付けながら規則正しい寝息を立てている。
寝癖がつき、ボサボサになった髪をすいてやりたいが、起こしてはいけないので我慢する。ベッドから降り、薄暗い部屋の中を物音を立てないように進む。この部屋にいるのはメイベルを含めて六人。最年少のルーカス以外は全員女の子。つまりここは女子部屋なのだが、まだ三歳のルーカスは幼く、夜泣きもするためメイベルが側に付いている。
「メイ……?」
「あ、ごめんね。起こした?」
傷みが酷い古い家屋は、どんなに気を付けて歩いても、床板が軋む。出入り口に一番近い二段ベッドの一階で寝ている孤児院の子供たちの中で最年長のミーネが目を覚ましてしまったようだ。
「まだ寝てて良いよ」
「……ううん、起きるよ」
最年長といっても、彼女はまだ九歳。こんな朝早くまだ寝ていたいだろうに、責任感の強い子だ。起き上がったミーネの頭を撫でながら、メイベルは他の子達を起こさぬよう彼女にだけ囁く。
「じゃあ、ルーカスのことお願い。時間になったらみんなを起こしてくれる? 男子部屋は私が行くから」
「うん……」
寝ぼけているようではあるが、しっかり頷いた彼女の頭をもう一度撫でて、まだ寝ている双子の姉妹とクラリアを起こさぬよう女子部屋を出る。
しんと静まり返った廊下を抜け、突き当たりのドアを開けると洗面所だ。他の子達の身の回りのものはそれぞれのロッカーにしまわれているが、メイベルの持ち物は洗面所に収納されている。棚の中から引っ張り出した黒いワンピースに着替え、勝手口から外へ出た。
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