年下クンと始める初恋

鈴屋埜猫

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「あんた、お子様ね」

 大きなため息の後、聞こえた声音はいつもの冬馬の口調だった。その声に、葉一が訝りながら顔を上げる。

「安心しなさい。私は茉歩にとっては女友達よ」
「は? でもアンタ……」
「私、心は女なの。ま、女も恋愛対象だけどね。でも茉歩は親友。今までも、これからも、ね」

 ニッコリと笑う冬馬に、葉一はポカンとしている。

「しっかりしなさい、色男。茉歩はね、お姉さん気質でしっかりしているように見えて、弱い子なのよ。その弱い部分を、他人に見せないように強がってるだけ」
「冬馬……」
「茉歩も茉歩よ。こんなに愛されてるのに、周りの言葉に振り回されて。いろいろ他人を思いやれるのは、アンタのいいところだけどね、このまま好きな人を諦めていいの? アンタ、それで幸せ?」

 真顔になった冬馬に問われて、泣きそうになる。諦めた方がいい、と思っていた。それが葉一のためだと。だから逃げたのだ。
 けれど、葉一の腕に抱かれて、その腕を振り解けない自分がいた。抱きしめられて嬉しかった。彼の腕の中以外に、安心できる場所などもう他にない。

「好きな人が好きでいてくれる。それ以上に幸せなことなんてないでしょ?」
「……うん」

 冬馬に応えながら、茉歩は葉一の腕に縋り付く。離れるなんて、できるわけがなかったのだ。そのことにようやく気づくなんて。

「茉歩姉……?」
「葉一さん。さっさとその子、連れてお帰んなさい。荷物は明日にでも送ってあげるから。あ、でもできたら手伝いは続けてもらいたいわ。せめて次が見つかるまで。いいかしら?」
「え? あ、はい」
「まぁ、詳しくはまた今度飲みに来た時にでも。あとは二人で仲直りしなさいな」

 捲し立てる冬馬に半ば気圧されながら、茉歩は葉一とともに彼の家へ帰ることになったのだった。
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