年下クンと始める初恋

鈴屋埜猫

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「茉歩、ごめん。ご新規様?」
「ええ。女性の方が甘いカクテルで、男性はスコッチをストレートでご注文いただきました」

 コースターを出していると、丁度バックヤードから冬馬が戻ってきた。彼にオーダーを通していると、エミリが話しかけてくる。

「茉歩さんがお作りになるんじゃないのね?」
「私は手伝いですので。ここのマスターは彼なんです」

 なんとか笑顔で返したものの、手の震えが止まらない。それを隠すために、茉歩は彼らに半ば背を向け、冷凍庫から氷を取り出す。

「茉歩のお知り合いですか?」
「俺が幼馴染で」

 冬馬の問いかけに、半ば食い気味で答えたのは葉一だ。その声が何となく怒気を孕んでいるように思えて、茉歩は居た堪れなくなる。

「そうでしたか。私は高校からの友人でして、欠員が出てしまったので、しばらく彼女に手伝いをお願いしてるんです」
「じゃあ、お二人は同級生なんですね」
「そうですね」
「仲がよろしいんですね。お似合いだわ」

 今度は葉一が口を挟むより先に、エミリがにこやかに冬馬と話す。最後の言葉に意味深なものを感じて、茉歩は胸が痛んだ。
 冬馬は親切心で茉歩を助けてくれている。それだけだと言うのに、あらぬ誤解を受けることになるなんて。心の中で、親友に謝る。

「茉歩。氷、四番テーブルにお願い」
「あ、はいっ」

 いつの間にか氷を砕く手が止まっていた。冷えて感覚が無くなりかけた手を動かし、必要な分を用意してカウンターを出る。何となく、葉一の視線を感じたが、極力そちらは見ないように気をつけた。
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