年下クンと始める初恋

鈴屋埜猫

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 春江との再会は、茉歩にとって嬉しいことだった。何より彼女の元気な姿を見てホッとした。最後に茉歩が見たのは自宅で倒れて動けなくなっている春江の姿だったから。

「ありがとう、葉ちゃん。春江おばあちゃんに会わせてくれて」
「会いに行くと、絶対言われるんだよ。茉歩ちゃんはどうしてる、元気なのかって。俺も会ってないから分からないって言うと、会いに行けって」

 ハンドルを握り、迷惑そうに言う葉一だが、その顔には安堵の色が見える。なんだかんだ、彼のおばあちゃん子気質は健在らしい。

「でも、さすがに葉ちゃんのお嫁さんに間違われてるのはな……結局、ちゃんと誤解解けなかったし」

 春江の真意は分からない。そこまで認知が進んでいるようには思わなかったが、あれが症状の一端なら仕方ないとも思う。だが、何だか嘘をついているようでいたたまれなかった。何より、葉一が迷惑だろう。

「なんか、嘘ついてる感じで申し訳ない。葉ちゃんも迷惑でしょ、私なんかとそんな言われて」
「何で? 迷惑なんかじゃないよ」
「いやいや、葉ちゃんモテるでしょうに」

 春江の同室の女性も言っていたが、葉一は世に言うイケメンだ。これは幼馴染の欲目でもなく、たぶん一般的な感覚。小さい頃から整った顔立ちで、あの頃は可愛いという印象が強かったが、大人の男になって、可愛いからカッコいいに変化した。
 それこそ、自分みたいなちんちくりんが隣にいるのもおこがましい。春江たちは可愛らしいと称してくれたが、あれは童顔の彼女に対する評価だ。ようは、子供っぽいということだと茉歩は解釈していた。
 昔ならいざ知らず、今の大人っぽい葉一には同じく大人っぽい女の子が似合うはず。決して自分のような、無駄に歳を取った子供っぽい女ではない。

「モテないし。好きでもない人にチヤホヤされてもしょうがないよ」
「いやいや、その発言はモテる人の発言でしょ」
「俺は一途な男なんで」

 ちょうど信号が赤になり、車はゆっくりとスピードを緩めて止まった。

「好きな人しか、デートになんて誘いませんよ」
「へ?」

 信号は赤にはなっているものの、葉一は前を向いたままだ。助手席の茉歩からは横顔しか見えないので、彼の表情を読み取ることはできなかった。

「それって、どういう……」
「さ、腹減ったし。何か食べに行こう」

 動き出した車に茉歩は押し黙る。今の葉一の言葉は何なのだろう。今日のこれはデートだと葉一は言った。そうなると、デートに誘われた茉歩を葉一が好きということになる。
 いやいや、まさか。茉歩にとって葉一は弟のような存在だ。葉一にとってもきっと同じ。それ以上でもそれ以下でもないはず。葉一が茉歩を好きだなんて、有り得ない。
 頭の中で自問自答を繰り返し、茉歩はかぶりを振る。そんな彼女の様子を、葉一が小さくため息を吐きながら横目で盗み見ていたことなど、気付くよしもなかった。


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