俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

文字の大きさ
上 下
93 / 96

15-9

しおりを挟む
「あ……奈月さんとお付き合いをさせていただいております、小鳥遊侑李と申します」

「おお! 奈月の彼氏さんか! 奈月の父です。いやぁ、こんな格好で申し訳ない。さっき日本に帰ってきてね。ん? て、ことは、結婚の挨拶かな?」

「はい。奈月さんと結婚したいと考えています」

 居間の方へと上がってきた父は、母の隣に腰を下ろす。その父に向かい、座布団を降りた侑李は頭を下げた。それを見て、奈月もまた座布団から降りて同じように頭を下げる。

「二人とも、顔を上げて」

 父の声に顔を上げる。ニコニコと笑う父は帰国したばかりだからか、少し薄汚れている感じはあるけれど、昔から変わっていない。

「奈月が選んだ人なら、僕は侑李くんを歓迎するよ。君に似て、娘たちは人を見る目があるからね」

「でも、お母さんは反対のようよ、お父さん」

「そうなのかい?」

 深月の言葉に、父は母に目を向ける。それまでは厳しい目を奈月たちに注いでいた母は、いつの間にか俯いていた。そんな母に微笑んで、父は母の手を取る。

静枝しずえさんは慎重な人だからね。でも、侑李くんがいい人だということは静枝さんも感じたんじゃないかい?」

「それは……」

「君のお陰で娘たちは立派な女性に成長した。自分の相手は自分でちゃんと選ぶことができる。僕たち親の役割は、彼女たちが助けを求めてきた時に手を差し伸べてあげたらいいんだよ」

 父の言葉に母が顔を上げる。頬を父に撫でられて、母は一つ息を吐いて奈月たちを見た。

「そうよね。奈月も、もう大人ですものね……小鳥遊さん、失礼な態度をとって申し訳ありません。奈月もごめんなさいね」

「いいえ、お義母様のご心配も分かりますから」

「……ありがとうございます。奈月、本当にいい方ね。お母さん、安心したわ」

 ようやく笑顔を見せた母に、ホッとする。やはり強固な母の牙城を崩せるのは、父だけだな、と再確認した気分だ。

「侑李くんたちは温泉には入ったのかい?」

「あ、いえ」

「なら入ってくるといい。部屋は客室を取ってあげてるのかな?」

「もう、お父さん。そういうことまとめて私、メールしたんだけど?」

「そうなのかい? ああ、本当だ。ごめんよ、深月」

 ポケットに入れていたガラケーを開く父にため息を吐き、深月がパンと手を打つ。

「さ、話はまとまったし、お父さんお風呂に入ってきたら? 奈月たち、お昼まだだって言うから、ここで一緒に食べたら良いわ」

 深月の言葉に母がすぐに立ち上がる。奈月は侑李にここにいていい、と言って、姉と連れ立って先を行く母に続いた。

「良かったね、お父さんわりとすぐ来てくれて」

「うん」

 惚れた弱みと言うべきか、母の暴走をとめられるのは、やはり父だけなのだな、と姉妹で笑い合いながら母を追って台所へと向かった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。 地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。 ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。 イラスト提供 千里さま

溺愛社長の欲求からは逃れられない

鳴宮鶉子
恋愛
溺愛社長の欲求からは逃れられない

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

完結*三年も付き合った恋人に、家柄を理由に騙されて捨てられたのに、名家の婚約者のいる御曹司から溺愛されました。

恩田璃星
恋愛
清永凛(きよなが りん)は平日はごく普通のOL、土日のいずれかは交通整理の副業に励む働き者。 副業先の上司である夏目仁希(なつめ にき)から、会う度に嫌味を言われたって気にしたことなどなかった。 なぜなら、凛には付き合って三年になる恋人がいるからだ。 しかし、そろそろプロポーズされるかも?と期待していたある日、彼から一方的に別れを告げられてしまいー!? それを機に、凛の運命は思いも寄らない方向に引っ張られていく。 果たして凛は、両親のように、愛の溢れる家庭を築けるのか!? *この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 *不定期更新になることがあります。

初恋は溺愛で。〈一夜だけのはずが、遊び人を卒業して平凡な私と恋をするそうです〉

濘-NEI-
恋愛
友人の授かり婚により、ルームシェアを続けられなくなった香澄は、独りぼっちの寂しさを誤魔化すように一人で食事に行った店で、イケオジと出会って甘い一夜を過ごす。 一晩限りのオトナの夜が忘れならない中、従姉妹のツテで決まった引越し先に、再会するはずもない彼が居て、奇妙な同居が始まる予感! ◆Rシーンには※印 ヒーロー視点には⭐︎印をつけておきます ◎この作品はエブリスタさん、pixivさんでも公開しています

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

冷徹上司の、甘い秘密。

青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。 「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」 「別に誰も気にしませんよ?」 「いや俺が気にする」 ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。 ※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。

処理中です...