俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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「あ……奈月さんとお付き合いをさせていただいております、小鳥遊侑李と申します」

「おお! 奈月の彼氏さんか! 奈月の父です。いやぁ、こんな格好で申し訳ない。さっき日本に帰ってきてね。ん? て、ことは、結婚の挨拶かな?」

「はい。奈月さんと結婚したいと考えています」

 居間の方へと上がってきた父は、母の隣に腰を下ろす。その父に向かい、座布団を降りた侑李は頭を下げた。それを見て、奈月もまた座布団から降りて同じように頭を下げる。

「二人とも、顔を上げて」

 父の声に顔を上げる。ニコニコと笑う父は帰国したばかりだからか、少し薄汚れている感じはあるけれど、昔から変わっていない。

「奈月が選んだ人なら、僕は侑李くんを歓迎するよ。君に似て、娘たちは人を見る目があるからね」

「でも、お母さんは反対のようよ、お父さん」

「そうなのかい?」

 深月の言葉に、父は母に目を向ける。それまでは厳しい目を奈月たちに注いでいた母は、いつの間にか俯いていた。そんな母に微笑んで、父は母の手を取る。

静枝しずえさんは慎重な人だからね。でも、侑李くんがいい人だということは静枝さんも感じたんじゃないかい?」

「それは……」

「君のお陰で娘たちは立派な女性に成長した。自分の相手は自分でちゃんと選ぶことができる。僕たち親の役割は、彼女たちが助けを求めてきた時に手を差し伸べてあげたらいいんだよ」

 父の言葉に母が顔を上げる。頬を父に撫でられて、母は一つ息を吐いて奈月たちを見た。

「そうよね。奈月も、もう大人ですものね……小鳥遊さん、失礼な態度をとって申し訳ありません。奈月もごめんなさいね」

「いいえ、お義母様のご心配も分かりますから」

「……ありがとうございます。奈月、本当にいい方ね。お母さん、安心したわ」

 ようやく笑顔を見せた母に、ホッとする。やはり強固な母の牙城を崩せるのは、父だけだな、と再確認した気分だ。

「侑李くんたちは温泉には入ったのかい?」

「あ、いえ」

「なら入ってくるといい。部屋は客室を取ってあげてるのかな?」

「もう、お父さん。そういうことまとめて私、メールしたんだけど?」

「そうなのかい? ああ、本当だ。ごめんよ、深月」

 ポケットに入れていたガラケーを開く父にため息を吐き、深月がパンと手を打つ。

「さ、話はまとまったし、お父さんお風呂に入ってきたら? 奈月たち、お昼まだだって言うから、ここで一緒に食べたら良いわ」

 深月の言葉に母がすぐに立ち上がる。奈月は侑李にここにいていい、と言って、姉と連れ立って先を行く母に続いた。

「良かったね、お父さんわりとすぐ来てくれて」

「うん」

 惚れた弱みと言うべきか、母の暴走をとめられるのは、やはり父だけなのだな、と姉妹で笑い合いながら母を追って台所へと向かった。

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