俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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「なっちゃん、隣に座っていい?」

 一応、許可を取る。すると素直に頷かれたので、チャイルドシートの隣に腰掛ける。後から乗り込んだ侑李は、2人の後ろの座席へ。そして運転席に乗り込んだ樹が、沙知に声をかける。

「沙知はなっちゃんに会いたかったんだもんな」

「そうなの? ごめんね、お正月も会いに来れなかったもんね」

 今年2歳になった沙知とは1年ぶりの再会。時折、テレビ電話で話すことはあったが、沙知は一緒に遊びたがっていた。今日のこの不機嫌はそれだけが理由ではないだろうが、要は寂しさが原因なのだろう。

「そうだ。さっちゃんさ、この子好きだったよね?」

「っ! ちっちゃ!」

 まだ上手く言葉を発せられない沙知が叫んだのは、猫の某人気キャラクター。舌足らずな言葉はたまに何と言っているのか分からないこともあるが、本人としてはちゃんと言っているつもり。奈月が取り出して見せた小さなぬいぐるみを、キラキラとした目で見つめる二歳児は不機嫌さが完全に吹き飛んだ様子で手を伸ばしてくる。

「欲しい?」

 尋ねると首を大きく縦に振る。その様子に笑いながら小さな手に乗せてやると、嬉しそうにぬいぐるみをかき抱く。

「沙知、なっちゃんに何て言うんだ?」

「ありあと!」

「はい、どういたしまして」

 頭を撫でてやるとキャッキャっと笑う。そして幸は、後方の侑李にぬいぐるみを見せびらかし始めた。

「みて、ちっちゃよ!」

「可愛いね。良かったね」

 笑いを堪えつつ侑李が答えると、沙知は満足したのかぬいぐるみと遊び始めた。

「ありがとうね、なっちゃん。もう朝からご機嫌斜めでさぁ」

「まだ好きで良かった。この人のブームすぐ去っちゃうもんね」

 ゆっくりと発信した旅館の送迎バスは、いつもは従業員が順に運転手を勤めている。今回は奈月たちだけだったので、樹が来てくれたのだろうが、彼も忙しいはずだった。

「樹兄、忙しいのに迎えありがとう」

「なっちゃんたち迎えに行かなかったら、俺が深月に殺されるよ。それに、うちのお姫様のご機嫌治せるのなっちゃんくらいだから」

 そんなことはないと思う。と思いつつ笑みだけ返したのは、それが樹の深月への気遣いだと分かっているからだ。身重の身体で小学校2年生と1年生。幼稚園年中組、そしてこの気難しい2歳児を相手にしている姉はすごいと心から思う。
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