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「……小鳥遊さんはおいくつ?」
「36歳です」
「お若く見えますね。失礼ですが、ご出身は?」
「生まれは和歌山ですが、育ったのは東京です。祖母がフランスの人で、クォーターになります」
「ああ、だから瞳が青いんですね」
淡々とした空気を一新しようとしたのか、深月が明るく口を挟む。母はその間もじっと侑李を見つめているだけ。こういう時、相変わらず何を考えているか分からない人だと思う。
「奈月と7つも離れていらっしゃるのね」
「今時、歳の差なんて大した問題じゃないわよ、お母さん」
「深月、少し黙って」
「私は良いと思うわ。小鳥遊さんは今、都内の会社の副社長をなさってるんですって。将来も安泰よ?」
「深月」
母の鋭い声に、深月は肩をすくめて口を噤む。娘を黙らせた母は、深く息を吐いて今度は奈月を見た。
「私はね、奈月。あなたの幸せを願ってるの。小鳥遊さんが素晴らしい方なのは分かったわ。でも、そんな方と結婚して、苦労するのはあなたじゃないの? 副社長夫人なんて、あなたに務まる?」
そう来たか、と奈月は内心歯噛みする。昔から何でも出来て、頼りがいのある姉の深月に対し、奈月は母の中でダメな子だった。得意なこともなく、成績は中の中。可もなく不可もなく、といった特徴のない人間、それが奈月だ。母の心配も分かるが、それを言われ続けて来たせいで奈月の中に、劣等感が植え付けられたと言っても良い。結局、それがあって恋愛にも消極的になっていたのだ。
「奈月さんは、とても素敵な女性です」
静まり返った居間に響いた低い声にハッとする。気付けば膝の上で握りしめていた拳を、侑李の手が包んでいた。見上げると、彼は真っ直ぐ母を見つめていて、真剣な横顔にドキリとする。
「私は奈月さんより年上ですし、副社長と言っても、小さなイベント会社です。すごくも何ともない、ただの男です。ですが、奈月さんを好きな気持ちは誰にも負けない」
侑李の手が奈月の手をギュッと握る。そして、ブルーの瞳が奈月を見て、優しく微笑む。
「奈月さんは周りに気遣いのできる優しい女性です。今日、こちらにお伺いして、彼女の優しさはここが原点なのだと知りました。私も、奈月さん以外に結婚は考えられません。この年まで独りでいたのは、きっと彼女に会うためだったのだと思っています」
優しいのは侑李の方だ。何もない奈月を好きだと言ってくれた。結婚したいと言ってくれた。恋愛を諦めかけていた奈月に、人を好きになることを教えてくれた人。繋いでくれたこの手の温もりを、今さら離すなんてできるはずがない。
侑李の手を握り返し、奈月は彼に微笑む。そして、厳しい目を向ける母を見つめた。
「お母さんが私を心配してくれてるのは分かってる。でも、私は……」
「おや、みんなお揃いだね?」
奈月の言葉を遮ったあっけらかんとしたのんきな声。庭先に突如現れた大きなリュックを背負い、首からカメラをぶら下げた男性は、ニコニコと近付いてくる。
「お父さん……」
いつからそこにいたのだろう。奈月たちの父は、縁側に荷物をドカリと下ろすと、侑李を見て首を傾げる。
「お客さんかい?」
「36歳です」
「お若く見えますね。失礼ですが、ご出身は?」
「生まれは和歌山ですが、育ったのは東京です。祖母がフランスの人で、クォーターになります」
「ああ、だから瞳が青いんですね」
淡々とした空気を一新しようとしたのか、深月が明るく口を挟む。母はその間もじっと侑李を見つめているだけ。こういう時、相変わらず何を考えているか分からない人だと思う。
「奈月と7つも離れていらっしゃるのね」
「今時、歳の差なんて大した問題じゃないわよ、お母さん」
「深月、少し黙って」
「私は良いと思うわ。小鳥遊さんは今、都内の会社の副社長をなさってるんですって。将来も安泰よ?」
「深月」
母の鋭い声に、深月は肩をすくめて口を噤む。娘を黙らせた母は、深く息を吐いて今度は奈月を見た。
「私はね、奈月。あなたの幸せを願ってるの。小鳥遊さんが素晴らしい方なのは分かったわ。でも、そんな方と結婚して、苦労するのはあなたじゃないの? 副社長夫人なんて、あなたに務まる?」
そう来たか、と奈月は内心歯噛みする。昔から何でも出来て、頼りがいのある姉の深月に対し、奈月は母の中でダメな子だった。得意なこともなく、成績は中の中。可もなく不可もなく、といった特徴のない人間、それが奈月だ。母の心配も分かるが、それを言われ続けて来たせいで奈月の中に、劣等感が植え付けられたと言っても良い。結局、それがあって恋愛にも消極的になっていたのだ。
「奈月さんは、とても素敵な女性です」
静まり返った居間に響いた低い声にハッとする。気付けば膝の上で握りしめていた拳を、侑李の手が包んでいた。見上げると、彼は真っ直ぐ母を見つめていて、真剣な横顔にドキリとする。
「私は奈月さんより年上ですし、副社長と言っても、小さなイベント会社です。すごくも何ともない、ただの男です。ですが、奈月さんを好きな気持ちは誰にも負けない」
侑李の手が奈月の手をギュッと握る。そして、ブルーの瞳が奈月を見て、優しく微笑む。
「奈月さんは周りに気遣いのできる優しい女性です。今日、こちらにお伺いして、彼女の優しさはここが原点なのだと知りました。私も、奈月さん以外に結婚は考えられません。この年まで独りでいたのは、きっと彼女に会うためだったのだと思っています」
優しいのは侑李の方だ。何もない奈月を好きだと言ってくれた。結婚したいと言ってくれた。恋愛を諦めかけていた奈月に、人を好きになることを教えてくれた人。繋いでくれたこの手の温もりを、今さら離すなんてできるはずがない。
侑李の手を握り返し、奈月は彼に微笑む。そして、厳しい目を向ける母を見つめた。
「お母さんが私を心配してくれてるのは分かってる。でも、私は……」
「おや、みんなお揃いだね?」
奈月の言葉を遮ったあっけらかんとしたのんきな声。庭先に突如現れた大きなリュックを背負い、首からカメラをぶら下げた男性は、ニコニコと近付いてくる。
「お父さん……」
いつからそこにいたのだろう。奈月たちの父は、縁側に荷物をドカリと下ろすと、侑李を見て首を傾げる。
「お客さんかい?」
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