俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

文字の大きさ
上 下
90 / 96

15-6

しおりを挟む
 グリシーヌホテルの名前が出た途端、目を見張った従業員たちを察知してか、侑李がそれとなく取りなした。そして彼が評した安心感は、この旅館がずっと大事に守り続けてきたことだ。それが伝わったのだと分かり、居合わせた従業員たちからホッと安堵した様子がうかがえた。それは深月も同じだったようだ。
 挨拶を終え部屋へと案内する為、荷物を抱えた馴染みの従業員が先頭を歩き出す。その後ろに侑李が続き、奈月も続こうとすると、すかさず深月が身体をくっつけて来た。

「イケメンじゃん!」

 囁くような音量だが、姉の興奮が伝わってくる。奈月の腕にしがみ付くかのように抱きついて来た深月に、奈月は苦笑した。

「出たよ、お姉ちゃんのミーハー発言」

「いや、だって、こんなイケメン初めて見たし」

「そりゃ、私だって」

「写真もらってたけど、実物の破壊力半端ない!」

 いつもは品行方正で高嶺の花と称される深月は、周りから大人しいと思われがちだ。だが、実際は感情豊か。ただ、興味がないことは全く関心を示さないので学生時代は大人しい、物静かな女性だと勘違いし、夢を見て告白する男子が後を立たなかった。そういう人たちは大抵、姉を言いなりになるタイプだと思っているので逆鱗に触れて、毒を吐かれ悲惨な目に遭う。そうでない時は樹かわざと悪役を買って出て、撃退していたものだ。

「良い人見つけたね、奈月。お姉ちゃんは鼻が高いよ」

「まだちょっとしか話してないのに、分かるの?」

「分かるわよ。それに、あんたを見る目が違うもの」

 そうだろうか、と奈月は前を行く侑李の背中を見る。今日はネイビーのシャツに白のチノパン姿の彼は、身長が高くて細身な身体をしている。でも、シャツの下は意外と筋肉質でガッチリとしているのを知っている。奈月を優しく包み込んでくれる、力強い男の人。

「あとはお母さんね」

「お父さんは?」

「連絡したけど、いつも通り音沙汰なし。今、どこにいるのやら……」

 堅実で厳格な母だが、意外にも父とは恋愛結婚だったという。写真家の父は海外を飛び回っていて、良く秘境と呼ばれる場所に行く為、携帯を持っていても電波の問題で連絡が取れないことはザラだった。

「ストッパーいないからどうなるか……メール見て、帰って来てくれると助かるんだけど……」

 口では早く結婚しろ、彼氏はいないのか、と言う母だがいざ相手を連れて来るとごねる。それは深月の時に経験済みだ。深月は跡継ぎという立場もあってのことだと思うが、迎えにも出てこないのは単に忙しいという理由だけではないだろう。

「奈月は侑李さんと同じ部屋でいいのよね?」

「あ、うん。構わない、けど?」

 本当は奈月も母屋にと思ったが、姉たち夫婦や子供たちで占領されている、と聞くとスペースを開けてもらうのも気が引けた。かといって、家族の前で彼氏と同じ部屋に泊まるというのも恥ずかしいのだが、別に部屋を取るのは旅館に迷惑かと考えた末の決断だった。

「部屋、桔梗の間にしたから、ゆっくりくつろいで」

「え? めっちゃ良い部屋じゃん?」

 桔梗の間はいわゆるジュニアスイート。露天風呂も完備している、結構人気な部屋だ。

「ちょうどキャンセルが出たのよ。それに決めたのはお母さんだから。料金は元々予約してくれた部屋のでいいって」

「え、でも……」

「良いのよ、甘えときなさい。お母さん、なんだかんだ小鳥遊さんに悪く思われたくないのよ」

 ウィンクして見せる深月に、奈月は微笑みを返す。

「こちらのお部屋です」

 先頭を歩いていた従業員が立ち止まり、中へと促す。そこで深月が腕を解いたので、奈月も侑李に続いて中へと入った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

溺愛社長の欲求からは逃れられない

鳴宮鶉子
恋愛
溺愛社長の欲求からは逃れられない

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

冷徹上司の、甘い秘密。

青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。 「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」 「別に誰も気にしませんよ?」 「いや俺が気にする」 ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。 ※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

処理中です...