俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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「今日、お客様の入りは?」

「そこそこかな。親父が手伝いにも来てるし、そう忙しくはないから、手伝いは大丈夫だからって。代わりと言っちゃなんだけど、チビたちを見てくれると助かるけど」

「分かった、任せて」

「あ、小鳥遊さんはゆっくりしてくださいね」

「ありがとうございます。でも、お手伝いできることがあれば、何でも仰ってください」

「良い人だなぁ、小鳥遊さん」

 樹は感心した様に言いながら、ゆっくりとバンを旅館のお客様用の出入り口に停車する。


「なっちゃん、沙知連れてってもらっていいかな?」

「いいけど、表から入っていいの?」

「いいよ、大丈夫。小鳥遊さんはお客様だし」

 樹の返答を聞きながら、沙知のチャイルドシートを外してやる。自ら降りてきた沙知と手を繋いでバンを降りると、顔馴染みの従業員たちが近付いてくる。彼らは手際良くバンから荷物と下ろしてくれた。そんな中、奥から誰かが近付いてくるのが見えた。

「おかえりなさい、お嬢さん」

立川たちかわさん!」

 優しい笑みを浮かべるダンディなおじ様。といっても、年齢的におじいちゃんのはずなのだけど、背筋がビシッと伸びた姿は、年配の人だと言うことをつい忘れてしまう。黒いズボンと白いシャツだけ見ると、バーのマスターでも通用しそうはのに、上から羽織った旅館の法被がやけにアンバランスだ。

「たーち!」

 醸し出される優しい空気に誰もが一瞬で心を奪われる。それは姪っ子、沙知も同じらしく、奈月の手を振り払うと立川の足に縋り付いて抱っこをせがみ出した。

「沙知。立川さんを困らせちゃダメよ」

 咎めるような声に沙知が途端にしゅんとなる。見れば、マタニティーのワンピースの上に旅館の法被を着た姉の深月が重そうなお腹を抱えて歩いてくる。どうやら沙知は声だけで、母親が来たことを察知したらしい。

「大丈夫ですよ、若女将」

「甘やかさないで、立川さん。もうすぐこの子もお姉ちゃんなんだから」

 そう言いながらお腹をさする幸せそうな姉の姿に、奈月は微笑む。立川も微笑み、腕を引っ張る沙知に付き合って旅館の外へと出て行った。

「お姉ちゃん、ただいま」

「おかえり、奈月。そちらが彼氏さん?」

「うん、小鳥遊侑李さん。侑李さん、姉の深月です」

 後ろから進み出た侑李に、深月は何度か瞬く。だがすぐに女将スマイルを浮かべると、深々と頭を下げた。

「初めまして、女将の深月です。本日は遠いところわざわざお越しいただき、ありがとうございます」

「初めまして、小鳥遊と申します。こちらこそ、お世話になります」

「グリシーヌホテルにおられたと妹から聞きました。そちらに比べると小さな旅館ですが、ゆっくりおくつろぎください」

「ありがとうございます。ですが、もうホテルは辞めた身ですので……こちらの旅館は初めて来たのに、何故か帰って来たかのような安心感があってホッとしますね」

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