俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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 そして、お盆休みに入った8月14日。福岡への観光も兼ねて、侑李と2泊3日の帰省旅行をすることになった。
 姉、深月みつきにその旨を連絡した際、迎えを出す、と言われ断ろうとしたのだが、強引な姉は聞く耳を持たなかった。そういうところは母に似てるんだよな、と思ったが口にはしない。すれば百倍になって返ってくるのは目に見えているからだ。

「おー、なっちゃん。久しぶり」

 空港を出ると、出迎えてくれたのは義理の兄、いつきだった。背は侑李と同じくらいだが、細身の侑李に比べて彼は大柄。ただ、太っているというわけではなく、それは全て筋肉だ。そしていつも角刈り。

「久しぶり、樹兄。こちら、小鳥遊侑李さんです」

「初めまして。小鳥遊侑李と言います」

 ニコニコと白いバンの側に立っている樹に、侑李を紹介する。昔から本当の兄のように慕ってきた樹は、姉と結婚する前から家族同然の付き合いだ。実の家族には言い難いことも聞いてくれる男前気質があるため、何かと頼りにしている存在だが、彼氏を紹介となるとやはり緊張する。

「初めまして、香山樹です。なっちゃん、カッコいい彼氏だね」

 樹は嘘を吐けない人だ。素直な彼の感想に、奈月も笑みを返す。

「うん、私にはもったいないくらいの人」

「惚気るねぇ」

「散々、私にお姉ちゃんのこと惚気てきたのに比べたら可愛いものでしょ?」

 そう。樹は深月にベタ惚れで、まだ付き合う前から深月への溢れんばかりの想いを奈月に吐露してきた。それにだんだんうんざりして、だったらさっさと告白しろ、と言ったのは2人が中学に上がる前。別々の中学に進学することが決まっていて、このまま疎遠になるのでは、とウジウジ悩む樹に小6だった奈月が叱咤した。

「はい、その節は大変お世話になりました」

 荷物を車に詰め込みながら頭を下げてくる樹に、律儀だなぁ、と思う。でもこれがこの人だ。純朴で、真っ直ぐで、非を素直に認められる人。この人が姉の相手で良かったとつくづく思う。

「今度は俺と深月が味方だからな」

「頼りにしてます、お義兄さん」

 頭をポンポンと樹の大きな手で撫でられ、ニッコリ微笑む。
促されるまま旅館のロゴが入ったバンの後部座席に乗り込むと、そこには先約がいた。チャイルドシートにくくりつけられている小さな女の子。その黒いクリクリした瞳がこちらをじっと見ていた。

「あ、さーちゃんだっ」

 わざとらしいくらいに明るい声で名前を呼ぶ。だが、姉の4番目の子、三女の沙知さちはご機嫌がよろしくないらしい。プクリと頬を膨らませている様はリスのようだった。

「なっちゃんだよ、覚えてる?」

 問いかけてみるが、じっと見つめ返されるだけ。だが、こんなことでめげていては、この子の相手は出来ない。
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