俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

文字の大きさ
上 下
82 / 96

14-2

しおりを挟む
 小さく首を振られて、ブーケを持ち変えて左手を出す。すると、背後でごそごそとした侑李が、奈月の左手を取った。薬指に感じた冷たい感触。それが指の付け根に到達した時、奈月は一瞬呼吸をするのを忘れた。

「サイズ、ピッタリみたいだね」

 確かめるように指を撫でてくる侑李を、見上げる。ブルーの瞳に奈月の姿が映っている。きっと奈月の瞳にも、彼の姿しか映っていない。キスの予感にそっと目を閉じれば、期待通り、唇に柔らかな感触が降ってくる。
 頬を伝った涙を拭われ、目を開けると、微笑まれた。

「嬉しい……」

「本当? 良かった」

「ありがとう、侑李さん」

 微笑み返すと、彼は一瞬笑みを引っ込め息を詰めた。

「侑李さん? えっ?」

 フッと下に下がった彼の顔を視線で追いかける。驚く間もなく身体が浮き上がり、にこやかな彼の顔が間近にあって、お姫様抱っこされたのだと気付いた。
 侑李はそのまま奈月をベッドまで連れていく。ベッドの中央に下ろされて、持っていたブーケを取られる。一度ベッドを降りた彼は、テーブルの上に丁寧にブーケを置く。

「それは?」

 代わりに手に取ったのは白い紙袋。ソファの上に置いてあったものだけど、アメニティか何かだろうか。

「必要なもの。さすがに挙式の時には持ち込めないから、前日から預けてた」

 ベッドサイドのチェストに紙袋を置いて、ベッドに上がってきた侑李が奈月のパンプスを脱がす。

「あ、自分で……」

「いいから」

 やんわりと制されて、両足から抜かれた靴は揃えてベッドの下へ。そこに自分の靴も並べた侑李は、すぐに奈月の方へと向かってくる。四つん這いで寄ってくる彼を見て、奈月はもっと上に上がろうと腕を使って身体をずらす。

「奈月さん、逃げないで?」

「ちが……もっと上がいいかなって……」

 掛け布団の上に座っている状態なのが気になって、ずり上がって行ったのだけど、追い付いてきた侑李は笑いながら奈月の上に乗ってきた。体重をかけながら、そのまま抱き締められて身動きが取れなくなってしまう。

「捕まえた」

 逃げてない、と思いながら見上げると、チュッと音を立ててキスされる。見つめてくるブルーの瞳が、劣情に揺れているように見える。その瞳にそっと手を伸ばして、目の下の辺りを撫でると、微笑んでくれたことに嬉しくなった。

「侑李さんの瞳、綺麗ですね」

「そう?」

「綺麗なブルー……クォーターだから?」

「かな。祖母の血が濃く出たみたい」

 彼の祖母はフランス人だと前に聞いた。その血が濃く出ているから、彼の瞳は青く、彫りが深い日本人離れした顔立ちなのだろう。

「この瞳、好き?」

 ずっと目の下辺りに指を這わせていたせいだろう。目を細めながら侑李がクスッと笑う。

「好き」

「良かった。奈月さんの好みの男性は、落ち着く声の人、だったかな?」

「……よく、覚えてますね?」

 好みの男性の話なんてしたっけ、と奈月自身、忘れてしまっていた。

「俺の声は、どう?」

「んっ……」

 目の下を撫でていた手をベッドに押さえつけられる。そのまま頬を擦り寄せてきた侑李の唇が耳朶に触れ、脳内に彼の声が響く。ぞくぞくとした感覚に身を捩ると、侑李の舌が耳の中に入って濡れた音を立てる。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。 地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。 ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。 イラスト提供 千里さま

溺愛社長の欲求からは逃れられない

鳴宮鶉子
恋愛
溺愛社長の欲求からは逃れられない

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

完結*三年も付き合った恋人に、家柄を理由に騙されて捨てられたのに、名家の婚約者のいる御曹司から溺愛されました。

恩田璃星
恋愛
清永凛(きよなが りん)は平日はごく普通のOL、土日のいずれかは交通整理の副業に励む働き者。 副業先の上司である夏目仁希(なつめ にき)から、会う度に嫌味を言われたって気にしたことなどなかった。 なぜなら、凛には付き合って三年になる恋人がいるからだ。 しかし、そろそろプロポーズされるかも?と期待していたある日、彼から一方的に別れを告げられてしまいー!? それを機に、凛の運命は思いも寄らない方向に引っ張られていく。 果たして凛は、両親のように、愛の溢れる家庭を築けるのか!? *この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 *不定期更新になることがあります。

初恋は溺愛で。〈一夜だけのはずが、遊び人を卒業して平凡な私と恋をするそうです〉

濘-NEI-
恋愛
友人の授かり婚により、ルームシェアを続けられなくなった香澄は、独りぼっちの寂しさを誤魔化すように一人で食事に行った店で、イケオジと出会って甘い一夜を過ごす。 一晩限りのオトナの夜が忘れならない中、従姉妹のツテで決まった引越し先に、再会するはずもない彼が居て、奇妙な同居が始まる予感! ◆Rシーンには※印 ヒーロー視点には⭐︎印をつけておきます ◎この作品はエブリスタさん、pixivさんでも公開しています

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

冷徹上司の、甘い秘密。

青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。 「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」 「別に誰も気にしませんよ?」 「いや俺が気にする」 ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。 ※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。

処理中です...