79 / 96
13-3
しおりを挟む
「小鳥遊さん、香山さん、本日はありがとうございます」
披露宴会場へと向かうため、移動する人の波に従って最後尾を歩いていると、出入口付近で見送りをしている新郎新婦の姿があった。
「ご結婚おめでとう。晴れの日をお祝いできて、嬉しく思います」
侑李が挨拶すると、奈月も綺麗な笑みを浮かべて頭を下げる。すると、新婦が突然、あっと声を上げた。
「小鳥遊さんですね。あっくんがお世話になってる上司の……」
「小鳥遊侑李と申します。もう上司ではないんですが」
新婦は遠目ではお淑やかに見えていたのだが、嬉しそうにする姿はどこか無邪気さが垣間見える女性だった。
「その節は大変お世話になりました。そちらが噂の彼女さんですか?」
どんな噂だ、と思いつつ頷く。ホテルのフロントで彼女だと公言したから、きっとあそこのホテル内だけでなく、小野原グループ全体に噂は回っていることだろう。
「とってもお綺麗な方ですね。あっくんが話してくれた通り」
「いえ、奥様の方がお綺麗です。本日は私まで参列させていただき、嬉しいです」
笑みを浮かべている奈月だが、緊張しているのだろう、侑李と繋いだままの手を離そうともがいているのが分かる。だが、侑李はそれを許さず、ギュッと握る手に力を込めた。
「小鳥遊さん、ラブラブですね」
手を繋いでいるのに気付いた岸田がからかってくる。さらに慌てた様子の奈月の手がすり抜けていくのを感じ、侑李は逃さないとばかりに、代わりに彼女の肩を抱く。
「岸田さんたちに負けないくらい、幸せになれるよう努力するよ」
ニッコリ笑った侑李に、一瞬目を丸くした岸田が笑い出す。
「すごいな。あんだけ恋愛には興味ない、みたいな仕事の鬼が。でも、良かったです。今の小鳥遊さん、俺、大好きですよ」
「そう?」
「あ、英理ちゃん」
「うん」
英理と呼ばれた新婦が頷き、手に持っていた薄いピンクの薔薇と緑のアイビーで彩られたブーケを、何故か侑李の前に差し出してきた。
「もらっていただけませんか?」
「え?」
ニッコリと微笑まれ、侑李は困惑する。
「ブーケって、トスするものじゃ? それに、女性が受け取るものでしょう?」
「俺たちはお菓子トスっていうのをする予定なんです。女性の参列者が少ないし、誰でも参加できるものを、と。それに、ブーケの本来の意味は、中世ヨーロッパで男性が女性にプロポーズする際に花束をプレゼントしたのが由来らしいんで」
答えた岸田が意味深な笑みを浮かべている。それを見て、侑李は思わず苦笑いを浮かべた。そして、同じように笑みを浮かべている英理から、ブーケを受け取る。
「ありがとうございます」
微笑んだ二人を式場のスタッフが呼びに来る。連れ立って歩いて行く二人を見送り、侑李は奈月の肩に手を添えたまま披露宴会場の方へと歩き出した。
披露宴会場へと向かうため、移動する人の波に従って最後尾を歩いていると、出入口付近で見送りをしている新郎新婦の姿があった。
「ご結婚おめでとう。晴れの日をお祝いできて、嬉しく思います」
侑李が挨拶すると、奈月も綺麗な笑みを浮かべて頭を下げる。すると、新婦が突然、あっと声を上げた。
「小鳥遊さんですね。あっくんがお世話になってる上司の……」
「小鳥遊侑李と申します。もう上司ではないんですが」
新婦は遠目ではお淑やかに見えていたのだが、嬉しそうにする姿はどこか無邪気さが垣間見える女性だった。
「その節は大変お世話になりました。そちらが噂の彼女さんですか?」
どんな噂だ、と思いつつ頷く。ホテルのフロントで彼女だと公言したから、きっとあそこのホテル内だけでなく、小野原グループ全体に噂は回っていることだろう。
「とってもお綺麗な方ですね。あっくんが話してくれた通り」
「いえ、奥様の方がお綺麗です。本日は私まで参列させていただき、嬉しいです」
笑みを浮かべている奈月だが、緊張しているのだろう、侑李と繋いだままの手を離そうともがいているのが分かる。だが、侑李はそれを許さず、ギュッと握る手に力を込めた。
「小鳥遊さん、ラブラブですね」
手を繋いでいるのに気付いた岸田がからかってくる。さらに慌てた様子の奈月の手がすり抜けていくのを感じ、侑李は逃さないとばかりに、代わりに彼女の肩を抱く。
「岸田さんたちに負けないくらい、幸せになれるよう努力するよ」
ニッコリ笑った侑李に、一瞬目を丸くした岸田が笑い出す。
「すごいな。あんだけ恋愛には興味ない、みたいな仕事の鬼が。でも、良かったです。今の小鳥遊さん、俺、大好きですよ」
「そう?」
「あ、英理ちゃん」
「うん」
英理と呼ばれた新婦が頷き、手に持っていた薄いピンクの薔薇と緑のアイビーで彩られたブーケを、何故か侑李の前に差し出してきた。
「もらっていただけませんか?」
「え?」
ニッコリと微笑まれ、侑李は困惑する。
「ブーケって、トスするものじゃ? それに、女性が受け取るものでしょう?」
「俺たちはお菓子トスっていうのをする予定なんです。女性の参列者が少ないし、誰でも参加できるものを、と。それに、ブーケの本来の意味は、中世ヨーロッパで男性が女性にプロポーズする際に花束をプレゼントしたのが由来らしいんで」
答えた岸田が意味深な笑みを浮かべている。それを見て、侑李は思わず苦笑いを浮かべた。そして、同じように笑みを浮かべている英理から、ブーケを受け取る。
「ありがとうございます」
微笑んだ二人を式場のスタッフが呼びに来る。連れ立って歩いて行く二人を見送り、侑李は奈月の肩に手を添えたまま披露宴会場の方へと歩き出した。
0
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説
【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。
真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。
地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。
ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。
イラスト提供 千里さま
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
二人の甘い夜は終わらない
藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい*
年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。
完結*三年も付き合った恋人に、家柄を理由に騙されて捨てられたのに、名家の婚約者のいる御曹司から溺愛されました。
恩田璃星
恋愛
清永凛(きよなが りん)は平日はごく普通のOL、土日のいずれかは交通整理の副業に励む働き者。
副業先の上司である夏目仁希(なつめ にき)から、会う度に嫌味を言われたって気にしたことなどなかった。
なぜなら、凛には付き合って三年になる恋人がいるからだ。
しかし、そろそろプロポーズされるかも?と期待していたある日、彼から一方的に別れを告げられてしまいー!?
それを機に、凛の運命は思いも寄らない方向に引っ張られていく。
果たして凛は、両親のように、愛の溢れる家庭を築けるのか!?
*この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
*不定期更新になることがあります。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる