俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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「小鳥遊さん、香山さん、本日はありがとうございます」

 披露宴会場へと向かうため、移動する人の波に従って最後尾を歩いていると、出入口付近で見送りをしている新郎新婦の姿があった。

「ご結婚おめでとう。晴れの日をお祝いできて、嬉しく思います」

 侑李が挨拶すると、奈月も綺麗な笑みを浮かべて頭を下げる。すると、新婦が突然、あっと声を上げた。

「小鳥遊さんですね。あっくんがお世話になってる上司の……」

「小鳥遊侑李と申します。もう上司ではないんですが」

 新婦は遠目ではお淑やかに見えていたのだが、嬉しそうにする姿はどこか無邪気さが垣間見える女性だった。

「その節は大変お世話になりました。そちらが噂の彼女さんですか?」

 どんな噂だ、と思いつつ頷く。ホテルのフロントで彼女だと公言したから、きっとあそこのホテル内だけでなく、小野原グループ全体に噂は回っていることだろう。

「とってもお綺麗な方ですね。あっくんが話してくれた通り」

「いえ、奥様の方がお綺麗です。本日は私まで参列させていただき、嬉しいです」

 笑みを浮かべている奈月だが、緊張しているのだろう、侑李と繋いだままの手を離そうともがいているのが分かる。だが、侑李はそれを許さず、ギュッと握る手に力を込めた。

「小鳥遊さん、ラブラブですね」

 手を繋いでいるのに気付いた岸田がからかってくる。さらに慌てた様子の奈月の手がすり抜けていくのを感じ、侑李は逃さないとばかりに、代わりに彼女の肩を抱く。

「岸田さんたちに負けないくらい、幸せになれるよう努力するよ」

 ニッコリ笑った侑李に、一瞬目を丸くした岸田が笑い出す。

「すごいな。あんだけ恋愛には興味ない、みたいな仕事の鬼が。でも、良かったです。今の小鳥遊さん、俺、大好きですよ」

「そう?」

「あ、英理えりちゃん」

「うん」

 英理と呼ばれた新婦が頷き、手に持っていた薄いピンクの薔薇と緑のアイビーで彩られたブーケを、何故か侑李の前に差し出してきた。

「もらっていただけませんか?」

「え?」

 ニッコリと微笑まれ、侑李は困惑する。

「ブーケって、トスするものじゃ? それに、女性が受け取るものでしょう?」

「俺たちはお菓子トスっていうのをする予定なんです。女性の参列者が少ないし、誰でも参加できるものを、と。それに、ブーケの本来の意味は、中世ヨーロッパで男性が女性にプロポーズする際に花束をプレゼントしたのが由来らしいんで」

 答えた岸田が意味深な笑みを浮かべている。それを見て、侑李は思わず苦笑いを浮かべた。そして、同じように笑みを浮かべている英理から、ブーケを受け取る。

「ありがとうございます」

 微笑んだ二人を式場のスタッフが呼びに来る。連れ立って歩いて行く二人を見送り、侑李は奈月の肩に手を添えたまま披露宴会場の方へと歩き出した。
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