俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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 奈月に振り向いて欲しい、好きだと言って欲しい。嫌われたくない一心で情けない姿を晒した。それでも、彼女は笑って受け止めてくれる。それがどんなに幸せで、侑李が欲しかったものか、きっと彼女は分からないだろう。
 チャペルでの挙式に参列し、新郎新婦に惜しみない拍手を送る奈月を見つめ、侑李は口元に笑みを浮かべる。恋愛に疲れていたのは彼女も同じ。でも、今はこうして侑李の隣に立ってくれている。これを日常にしたいと思うのは欲張りだろうか。
 付き合ってまだ間もないというのに、頭にチラつくのは結婚の二文字。これまで女性と付き合っていても、こんなことはなかった。その想いは奈月と同棲生活を始めてからさらに強くなって、彼女から抜糸が済んだから自分のマンションに戻ると言われて、思わず引き止めていた。嫌だ、なんて我ながら子供のような駄々をこねて。
 彼女が自分の家に戻ろうと考えていることは何となく分かっていた。自由にしていいと言ったのに、大半の荷物はスーツケースの中。シワになるスーツ類は、クローゼットの端っこに遠慮がちに寄せられていた。彼女のためにと購入したドレッサーは使ってくれているが、毎回、小さな声でお借りします、と呟いているのも知っている。
 今までのは恋愛ではなかったのかと思うくらい、侑李は奈月に夢中だった。これではまるで、初恋に浮かれる中学生のようだと思うけれど、好きなのだから仕方がない。彼女にずっと自分を見ていて欲しい、自分には彼女しかいないように、彼女もそうであって欲しいと心から願う。
 きっと、今まで付き合ってきた女性たちは今の侑李のような心境だったのだろう。そうだとすれば、彼女たちに失礼なことをしていたのだと気付く。こんな気持ち、奈月に出会うまで知るよしもなかったのだから。

「花嫁さん、綺麗な方ですね」

 拍手の合間に聞こえた奈月の声に耳を寄せる。凛とした声が、少しふわふわと浮き足立っているように聞こえる。

「遠距離恋愛だったんだ。奥さんは地方の出だそうで、結婚を機にこっちに引っ越して来たって」

「そうなんですね。やっぱり、好きな人とはずっと側にいたいですもんね」

 奈月もそうか、と聞きたくなる気持ちをグッと抑えた。同棲を続けたいという侑李のわがままを、彼女は受け入れてくれた。突発的にしてしまったプロポーズ紛いの言葉も、嫌がる素振りはなくて、彼女との未来を期待している侑李がいる。お互いにいい歳だ。だが、付き合った期間を考えれば早過ぎるのではないかという気持ちもある。
 葛藤を抱えながら、拍手をやめて椅子に腰掛ける。外国人の神父が片言で話す言葉を聞きながら、あそこに自分たちが立つことを想像してしまう。きっとウエディングドレスを着た奈月は綺麗だ。
 そして向あわせになった新郎新婦が誓いのキスをする場面で、侑李は奈月の膝にある左手を握った。指先で撫でたのは彼女の細い薬指。ビクッと震える彼女に口元が緩んでしまう。そのまま指を絡ませると、握り返してくれるのが分かり、嬉しくなった。
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