俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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 そして迎えた岸田の結婚式当日。奈月は新調した光沢のあるブルーのドレスに袖を通した。胸元がレース素材のノースリーブ。裾もふんわりとして広がりすぎず、かといってタイトでもない。シルエットが綺麗なこのドレスを選んだ一番の理由は、色。鮮やかなブルーに、侑李の瞳の色を重ねてしまったからだ。
 だが、背中のファスナーを上げようとした奈月は困り果てた。途中までは上がったものの、布が引っかかったのかそこから上に上がらない。真後ろなので、どうなってるかも見えず、悪戦苦闘するうちに腕が吊りそうになってくる。

「いたたた……」

 変に腕を曲げすぎたのか、二の腕辺りに痛みが生じた。腕をさすりながらどうしようかと思っていると、寝室のドアが遠慮がちにノックされた。

「奈月さん? そろそろ美容室の予約の時間だけど、大丈夫?」

「あ……」

 髪のセットのため、結婚式場の近くの美容室を予約している。そこに向かうまでの時間を考えると、そろそろ出た方がいい。だが、チャックを自力で上げるのは無理そうだ。

「あの、侑李さん、ごめんなさい」

「どうした?」

 ドアを開けると、すでに身支度を終えた侑李が微笑む。彼に頼むのは正直恥ずかしいけれど、背に腹はかえられない、と奈月は背中を彼に向ける。

「何か、布が挟まったみたいで上がらないの」

「ああ……本当だ」

 背中に感じる彼の指先。一度下へと下ろされたチャックが、ゆっくりと上に滑っていく。さっきまで悪戦苦闘していたのは何だったのかと思うくらい、すんなり上がったファスナー。そして、うなじに感じた、甘いピリッとした痛み。

「んっ……」

 覚えのある痛みに肩を震わせると、ツッと首筋を這った彼の唇がまた別の場所に甘い痛みを与えてくる。

「ぁ、侑李さ、ダメ……痕……」

「そう、キスマーク付けた。あなたが俺のだって、証。悪い虫が寄ってこないように、牽制しとかないと」

 前にも、セックスの最中につけられたことを思い出す。付けられている時には快感を追うのに必死で、ちょっと痛い、と思っただけだった。それがキスマークを付けられたのだと知ったのは、会社で。教えてくれた亜也に、さんざんからかわれ、恥ずかしい思いをした。

「もう……今から美容室に行くのに……」

「そうだね、ごめん。あんまりにも魅力的で、我慢できなくて。ドレス似合ってる」

 身体の向きを変えられて、抱き締められる。そっと重ねられた唇が心地よくて、触れるだけで離れていく彼の唇を寂しいと思った。

「んぅ……はっ」

「そんな顔して……美容室、行くだろ?」

 一旦は離れかけた彼の唇は、今度は深く舌を絡めてきた。嬉しくて彼の背中に手を回し、舌の動きに応えると、ようやく離れた時には透明な糸が唇を繋いでいた。
 奈月の唇を指でなぞり、何かに耐えるように顔をしかめた彼の唇に、奈月のリップの色が移っている。彼に習って、唇を指でなぞりリップを拭うと、その指をパクリと食べられる。

「っ、侑李さん?」

「ごめん、美味しそうで、つい。さ、行こう」

 食べられた指先が熱い。その手を取った侑李はニッコリ笑い、リビングのソファに置いていた奈月のバッグを持つ。
 侑李がタクシーを呼んでいてくれていたのと、運転手さんの手腕で美容室の予約時間には間に合い、事なきを得た。ただ、首筋のキスマークは美容師さんにすぐ気付かれてしまい、恥ずかしい思いをする。髪をセットしてくれたお姉さんに、素敵な彼氏で羨ましいです、なんて言われて真っ赤になりながら、少し後毛を出し気持ちキスマークを隠すことになった。
 待合で待ってくれていた侑李の元に行くと、パラパラとめくっていた雑誌を棚に戻した彼は微笑んで手を伸ばしてくる。その姿が王子様のようだと思いながら、大きな手のひらに手を乗せると、指を絡めて繋がれてしまう。
 美容室のお姉さんの朗らかな声に見送られながら、結婚式場に歩いて向かう。その間も、繋がれた手にドキドキしっぱなしの奈月だった。

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