俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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 ようやく彼から詳しい話が聞けたのは、イベントが終わってから。会社に戻るという亜也を見送ることになったのは、侑李がやんわりと奈月を引き留めたからだった。

「あの、一緒に行って欲しいところって……」

 問いかけた言葉に微笑みだけを返し、彼は奈月の手を取るとホテルの中へと引き返していく。不思議に思っていると、彼が迷わず向かったのはフロントだった。

「岸田さん」

「あれ、小鳥遊さん。お帰りになったんじゃ? 香山さんもご一緒で。お忘れものでも?」

 フロントスタッフの岸田は、打ち合わせの際に何度か面識がある。不思議そうな岸田に対し、条件反射で営業スマイルを浮かべたものの、奈月だって戸惑っている。何故、侑李がフロントへやって来たのか、全く分からない。

「ああ、先に君に伝えとこうと思って。彼女、香山さんも君の結婚式に参列して構わないかな?」

「「え?」」

 侑李の発言に、岸田の声と奈月の声が重なる。思わず侑李を見上げた後、岸田を見ると、彼も目を丸くしている。だが、すぐに何かに納得したように数回頷いた。

「え、あの、どういう……」

「彼、結婚したばかりなんです。来月が結婚式で」

「そうなんですか? おめでとうございます」

 おめでたい話に、慌ててお祝いを述べる。ありがとうございます、と笑顔で応じてくれた岸田と微笑み合う。でも、すぐに頭に浮かんだのは、侑李が奈月を参加させると言ったことに対する疑問。

「……え、でも、なんで私?」

 岸田とは面識があるとはいえ、それは数回だけの話だ。会社の関係者を結婚式に呼ぶなんてよくあることだけど、奈月はそこまでの関わりがあるとはいえない。
 困惑していると、何故か岸田以外のフロントスタッフもこちらをチラチラ見ている。他に客がいないからか、余計に目立っている気がして、少し後退ろうとした奈月の肩を侑李が抱く。

「香山さんとお付き合いしてるんだ。結婚を前提に」

「「え?」」

 今度は奈月の声とフロントスタッフの女性の声が重なる。侑李を見上げると、ブルーの綺麗な瞳が見つめ返してくる。その瞳につい眼を奪われて、周りに人がいるということが頭からすっぽ抜けそうになる。
 なんとか理性を取り戻せたのは、スタッフの女性たちのヒソヒソ声があったから。

「あの人。小鳥遊さんの彼女なの?」

「しかも、結婚前提とか言ってなかった?!」

「やだ、嘘でしょー……」

 音量は抑えた声だったが、奈月の耳にはその言葉がしっかりと聞こえ、胸に突き刺さる。イケメンで、仕事もできる侑李のことだ。きっと女性に困らなかったはずだ。
しかもフロントスタッフの女性たちはとても綺麗で、顔もスタイルも平凡な奈月は足元にも及ばない。そんな彼女たちの前でこんな風に関係を公表されるとは思ってなくて、居た堪れなくなってしまう。

「そうでしたか。小鳥遊さんにも、いい人が見つかったんですね」

「ああ。ようやく」

「でしたら、是非、結婚式においでいただきたいです。香山さんのご迷惑でなければ、ですが」

 そう言って、微笑む岸田に困惑する。すると、侑李が奈月の肩を抱く手に少しだけ力を込めた。視線を上げると優しく微笑まれる。

「一緒に、行ってもらえますか?」

「は、い……」

拒否するなんて、頭にはなかった。返事をすると、侑李は笑みを深める。その綺麗な笑顔に、奈月も頬を緩ませた。
彼女だと、結婚を前提にしている仲だと公言されて、恥ずかしさはあるけど。彼が信頼し、また信頼されている相手の晴れの日を一緒に祝えるなんて、嬉しくない訳がないのだから。
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