75 / 96
12-3
しおりを挟む
ようやく彼から詳しい話が聞けたのは、イベントが終わってから。会社に戻るという亜也を見送ることになったのは、侑李がやんわりと奈月を引き留めたからだった。
「あの、一緒に行って欲しいところって……」
問いかけた言葉に微笑みだけを返し、彼は奈月の手を取るとホテルの中へと引き返していく。不思議に思っていると、彼が迷わず向かったのはフロントだった。
「岸田さん」
「あれ、小鳥遊さん。お帰りになったんじゃ? 香山さんもご一緒で。お忘れものでも?」
フロントスタッフの岸田は、打ち合わせの際に何度か面識がある。不思議そうな岸田に対し、条件反射で営業スマイルを浮かべたものの、奈月だって戸惑っている。何故、侑李がフロントへやって来たのか、全く分からない。
「ああ、先に君に伝えとこうと思って。彼女、香山さんも君の結婚式に参列して構わないかな?」
「「え?」」
侑李の発言に、岸田の声と奈月の声が重なる。思わず侑李を見上げた後、岸田を見ると、彼も目を丸くしている。だが、すぐに何かに納得したように数回頷いた。
「え、あの、どういう……」
「彼、結婚したばかりなんです。来月が結婚式で」
「そうなんですか? おめでとうございます」
おめでたい話に、慌ててお祝いを述べる。ありがとうございます、と笑顔で応じてくれた岸田と微笑み合う。でも、すぐに頭に浮かんだのは、侑李が奈月を参加させると言ったことに対する疑問。
「……え、でも、なんで私?」
岸田とは面識があるとはいえ、それは数回だけの話だ。会社の関係者を結婚式に呼ぶなんてよくあることだけど、奈月はそこまでの関わりがあるとはいえない。
困惑していると、何故か岸田以外のフロントスタッフもこちらをチラチラ見ている。他に客がいないからか、余計に目立っている気がして、少し後退ろうとした奈月の肩を侑李が抱く。
「香山さんとお付き合いしてるんだ。結婚を前提に」
「「え?」」
今度は奈月の声とフロントスタッフの女性の声が重なる。侑李を見上げると、ブルーの綺麗な瞳が見つめ返してくる。その瞳につい眼を奪われて、周りに人がいるということが頭からすっぽ抜けそうになる。
なんとか理性を取り戻せたのは、スタッフの女性たちのヒソヒソ声があったから。
「あの人。小鳥遊さんの彼女なの?」
「しかも、結婚前提とか言ってなかった?!」
「やだ、嘘でしょー……」
音量は抑えた声だったが、奈月の耳にはその言葉がしっかりと聞こえ、胸に突き刺さる。イケメンで、仕事もできる侑李のことだ。きっと女性に困らなかったはずだ。
しかもフロントスタッフの女性たちはとても綺麗で、顔もスタイルも平凡な奈月は足元にも及ばない。そんな彼女たちの前でこんな風に関係を公表されるとは思ってなくて、居た堪れなくなってしまう。
「そうでしたか。小鳥遊さんにも、いい人が見つかったんですね」
「ああ。ようやく」
「でしたら、是非、結婚式においでいただきたいです。香山さんのご迷惑でなければ、ですが」
そう言って、微笑む岸田に困惑する。すると、侑李が奈月の肩を抱く手に少しだけ力を込めた。視線を上げると優しく微笑まれる。
「一緒に、行ってもらえますか?」
「は、い……」
拒否するなんて、頭にはなかった。返事をすると、侑李は笑みを深める。その綺麗な笑顔に、奈月も頬を緩ませた。
彼女だと、結婚を前提にしている仲だと公言されて、恥ずかしさはあるけど。彼が信頼し、また信頼されている相手の晴れの日を一緒に祝えるなんて、嬉しくない訳がないのだから。
「あの、一緒に行って欲しいところって……」
問いかけた言葉に微笑みだけを返し、彼は奈月の手を取るとホテルの中へと引き返していく。不思議に思っていると、彼が迷わず向かったのはフロントだった。
「岸田さん」
「あれ、小鳥遊さん。お帰りになったんじゃ? 香山さんもご一緒で。お忘れものでも?」
フロントスタッフの岸田は、打ち合わせの際に何度か面識がある。不思議そうな岸田に対し、条件反射で営業スマイルを浮かべたものの、奈月だって戸惑っている。何故、侑李がフロントへやって来たのか、全く分からない。
「ああ、先に君に伝えとこうと思って。彼女、香山さんも君の結婚式に参列して構わないかな?」
「「え?」」
侑李の発言に、岸田の声と奈月の声が重なる。思わず侑李を見上げた後、岸田を見ると、彼も目を丸くしている。だが、すぐに何かに納得したように数回頷いた。
「え、あの、どういう……」
「彼、結婚したばかりなんです。来月が結婚式で」
「そうなんですか? おめでとうございます」
おめでたい話に、慌ててお祝いを述べる。ありがとうございます、と笑顔で応じてくれた岸田と微笑み合う。でも、すぐに頭に浮かんだのは、侑李が奈月を参加させると言ったことに対する疑問。
「……え、でも、なんで私?」
岸田とは面識があるとはいえ、それは数回だけの話だ。会社の関係者を結婚式に呼ぶなんてよくあることだけど、奈月はそこまでの関わりがあるとはいえない。
困惑していると、何故か岸田以外のフロントスタッフもこちらをチラチラ見ている。他に客がいないからか、余計に目立っている気がして、少し後退ろうとした奈月の肩を侑李が抱く。
「香山さんとお付き合いしてるんだ。結婚を前提に」
「「え?」」
今度は奈月の声とフロントスタッフの女性の声が重なる。侑李を見上げると、ブルーの綺麗な瞳が見つめ返してくる。その瞳につい眼を奪われて、周りに人がいるということが頭からすっぽ抜けそうになる。
なんとか理性を取り戻せたのは、スタッフの女性たちのヒソヒソ声があったから。
「あの人。小鳥遊さんの彼女なの?」
「しかも、結婚前提とか言ってなかった?!」
「やだ、嘘でしょー……」
音量は抑えた声だったが、奈月の耳にはその言葉がしっかりと聞こえ、胸に突き刺さる。イケメンで、仕事もできる侑李のことだ。きっと女性に困らなかったはずだ。
しかもフロントスタッフの女性たちはとても綺麗で、顔もスタイルも平凡な奈月は足元にも及ばない。そんな彼女たちの前でこんな風に関係を公表されるとは思ってなくて、居た堪れなくなってしまう。
「そうでしたか。小鳥遊さんにも、いい人が見つかったんですね」
「ああ。ようやく」
「でしたら、是非、結婚式においでいただきたいです。香山さんのご迷惑でなければ、ですが」
そう言って、微笑む岸田に困惑する。すると、侑李が奈月の肩を抱く手に少しだけ力を込めた。視線を上げると優しく微笑まれる。
「一緒に、行ってもらえますか?」
「は、い……」
拒否するなんて、頭にはなかった。返事をすると、侑李は笑みを深める。その綺麗な笑顔に、奈月も頬を緩ませた。
彼女だと、結婚を前提にしている仲だと公言されて、恥ずかしさはあるけど。彼が信頼し、また信頼されている相手の晴れの日を一緒に祝えるなんて、嬉しくない訳がないのだから。
0
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
二人の甘い夜は終わらない
藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい*
年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる