俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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 確かにそうだと思うけど、会場に社長を連れて来たのは彼らの手腕なのではないかと思う。雰囲気的に仲が良いようだったし、彼らにとって小野原グループは古巣だ。対する奈月たちテンマ化粧品からすると、小野原グループは大きすぎて足がすくむ相手だし、おいそれと会えない雲の上の存在だと言っていい。

「……香山さんに以前、知り合いがテンマ化粧品の商品を使っていると言ったと思うのですが、覚えてますか?」

「え?」

 侑李の言葉に首を傾げる。そう言えば、初めての名刺交換で彼が奈月の名刺を見てチラリとそんなことを言っていた気がする。奈月は彼の名刺の小野原グループの文字に驚いていて、それどころじゃなかったけど。

「その知り合いが、小野原社長なんですよ」

「えぇ?!」

 素っ頓狂な声が出てしまい、慌てて口を手で覆う。静かな会場内だが、幸い周りには聞こえていなかったようだ。すると、クスリと笑った侑李が少し身を屈めてきた。

「ハンドクリームが特にお気に入りで。他の商品もあのテイストで出ないかと、常々言っていた程だったんです」

「そうだったんですか……」

「ちょうど今回、ホテルに置くアメニティに男性用のスキンケア用品も加えようと考えていたそうで。会場の件を相談した時から興奮気味で……ちょっと大変でした。テスターを使って、すぐにでも担当者と話がしたいと言って聞かなくて。真壁さんをお借りしてしまい、申し訳ないです」

「いえ、そんな。こちらとしては、こんなありがたいことはありませんから」

 小野原グループとの繋がりができるとなれば、すごいことだ。

「今回の案件では、仕方のない事情とはいえ、真壁の力が十二分には発揮できませんでした。でも、小鳥遊さんたちが繋いでくださったご縁で、彼女の能力を活かせる機会ができて嬉しいです」

「お役に立てたなら何よりです」

 ニッコリと微笑む侑李はやっぱりカッコいい。やること全てがスマートだし、押し付けがましくはない。まぁ、プライベートの時の彼は、カッコいいだけでなく、少し悪戯っこだったり、甘えることもあるけれど。その時見せる顔は、自分にだけ見せてくれたらいい、と奈月は思う。

「どうしました?」

 少し甘えたい気持ちになって、周りからは分からないように気をつけながら、彼の指を軽く握った。一瞬、目を見張ったものの、彼はさらに指を絡めてくる。

「何となく。侑李さんはやっぱりカッコいいなって」

「そうですか? 普通だと思いますが……」

「いろいろと感謝しています。侑李さんがいないと、イベントも上手く行かなかった」

「それは真壁さんと奈月さんが頑張ったから」

「いいえ。侑李さんが私を精神的に支えてくれてました。自分がこんなに弱いって、私、知らなかったですもん」

 亜也が事故にあったと聞いた時、頭が真っ白になった。そんな奈月を奮い立たせてくれたのは、侑李の声。怪我をした時も、支えてくれたのは彼の温もり。あの時、彼の腕の中で怪我で済んで良かったと心から思った。
あの日、彼が来てくれなかったら。一緒に暮らそうと言ってくれなかったら、今ごろどうしていただろう。

「侑李さんがいてくれて良かったです」

「困ったな……まだ仕事中なのに、抱き締めたくてたまらない」

 そう言って困ったように笑う顔も好きだ。恋愛なんてできやしないと思っていたけれど、好きな人がいて、その人も自分を好きだと言ってくれる。それはどんなに幸せなことか。

「奈月さん、俺のお願い、聞いてもらえますか?」

「なんです?」

 問いかけに答えず、侑李は視線を前に戻してしまう。それを見て、奈月も同じように視線を戻した。

「後程、一緒に行って欲しいところがあるんです」

「どこにです?」

視線はお互い前に向いたまま。でも、やっぱり彼は質問には答えてくれなくて。ちらりと横目で彼の顔を盗み見ると、繋がれた手のひらをそっと彼の指がなぞった。不意をつかれてビクリと肩を震わせる奈月に、侑李は楽しげに笑うだけ。結局、その後はイベント終了まで忙しくなって侑李と話す機会がなかった。

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