俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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「お噂はかねがね。この度は弊社を会場に選んでいただき、誠にありがとうございます。私は小野原グループ代表取締役、小野原葵おのはらあおいです」

 名刺を受け取りながら、奈月の心臓はうるさいくらいに鳴っていた。会場を借りている会社の人が挨拶に来ることは珍しくない。だが、社長本人が来るというのはそうそうないことだ。まして、小野原グループは大企業。まさか名刺交換することになるとは、正直夢にも思っていなかった。

「こちらこそ、素敵な会場をお貸しいただき感謝しております」

 内心、心臓はバクバクだし、今にも倒れそうな気分だ。だが、そこは一応ベテラン社員。営業スマイルを顔に貼り付け、奈月は平静を装う。ただ、隣にいる亜也は名刺を手にフリーズしてしまっている。

「今回の企画は、こちらの真壁さんが主導で進めてくださっていたんですよ。初めての担当案件だったそうなんですが、全くそうは思えぬほどで」

「いえ、そんなっ。私はまだまだで……全ては香山主任と小鳥遊副社長のお力添えがあってこそです!」

 風磨の言葉に我に返り、慌てた様子で弁明した亜也に、小野原社長は朗らかに微笑む。

「謙遜なさることはない。あなたは十分能力のある方だ。確かに周りの力もあってのことでしょうが、そうして周りを動かす力もあなたが持っている能力ですよ」

 力強い小野原社長の言葉に、亜也はありがとうございます、と声を詰まらせながら頭を下げた。

「それで、実はご相談なのですが……我がホテルのアメニティに、男性用のスキンケア用品も加えようかと検討しているところでして」

「え……」

「できましたら、テンマ化粧品さんにお願いできないかと」

 腰を曲げた姿勢のまま、顔だけ上げて固まってしまった亜也の背を優しく叩く。振り返った彼女に小さく頷いて見せると、小野原社長に向き直った亜也はまた深々と頭を下げた。

「ありがとうございます」

「是非、詳しくお話をしたいのですが、ご都合をお伺いしても?」

「はい!」

 二人が話している間に、壁際に置いていた亜也の荷物を持って来て渡してやる。奈月に一礼した亜也を連れて、落ち着いて話せる場所へ、と小野原社長を先頭に亜也と風磨が後に続いた。

「小鳥遊さんはいいんですか?」

「私の担当はここなので」

 スッと横に立った侑李を見上げると、ニッコリと返される。それもそうか、と思いつつ会場に目をやったのだが、礼は述べるべきだと思い直して彼に軽く頭を下げる。

「小野原社長と繋げてくださって、ありがとうございます」

「いいえ。ビジネスは持ちつ持たれつですから」
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