俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

文字の大きさ
上 下
73 / 96

12-2

しおりを挟む
「お噂はかねがね。この度は弊社を会場に選んでいただき、誠にありがとうございます。私は小野原グループ代表取締役、小野原葵おのはらあおいです」

 名刺を受け取りながら、奈月の心臓はうるさいくらいに鳴っていた。会場を借りている会社の人が挨拶に来ることは珍しくない。だが、社長本人が来るというのはそうそうないことだ。まして、小野原グループは大企業。まさか名刺交換することになるとは、正直夢にも思っていなかった。

「こちらこそ、素敵な会場をお貸しいただき感謝しております」

 内心、心臓はバクバクだし、今にも倒れそうな気分だ。だが、そこは一応ベテラン社員。営業スマイルを顔に貼り付け、奈月は平静を装う。ただ、隣にいる亜也は名刺を手にフリーズしてしまっている。

「今回の企画は、こちらの真壁さんが主導で進めてくださっていたんですよ。初めての担当案件だったそうなんですが、全くそうは思えぬほどで」

「いえ、そんなっ。私はまだまだで……全ては香山主任と小鳥遊副社長のお力添えがあってこそです!」

 風磨の言葉に我に返り、慌てた様子で弁明した亜也に、小野原社長は朗らかに微笑む。

「謙遜なさることはない。あなたは十分能力のある方だ。確かに周りの力もあってのことでしょうが、そうして周りを動かす力もあなたが持っている能力ですよ」

 力強い小野原社長の言葉に、亜也はありがとうございます、と声を詰まらせながら頭を下げた。

「それで、実はご相談なのですが……我がホテルのアメニティに、男性用のスキンケア用品も加えようかと検討しているところでして」

「え……」

「できましたら、テンマ化粧品さんにお願いできないかと」

 腰を曲げた姿勢のまま、顔だけ上げて固まってしまった亜也の背を優しく叩く。振り返った彼女に小さく頷いて見せると、小野原社長に向き直った亜也はまた深々と頭を下げた。

「ありがとうございます」

「是非、詳しくお話をしたいのですが、ご都合をお伺いしても?」

「はい!」

 二人が話している間に、壁際に置いていた亜也の荷物を持って来て渡してやる。奈月に一礼した亜也を連れて、落ち着いて話せる場所へ、と小野原社長を先頭に亜也と風磨が後に続いた。

「小鳥遊さんはいいんですか?」

「私の担当はここなので」

 スッと横に立った侑李を見上げると、ニッコリと返される。それもそうか、と思いつつ会場に目をやったのだが、礼は述べるべきだと思い直して彼に軽く頭を下げる。

「小野原社長と繋げてくださって、ありがとうございます」

「いいえ。ビジネスは持ちつ持たれつですから」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。 地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。 ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。 イラスト提供 千里さま

溺愛社長の欲求からは逃れられない

鳴宮鶉子
恋愛
溺愛社長の欲求からは逃れられない

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

完結*三年も付き合った恋人に、家柄を理由に騙されて捨てられたのに、名家の婚約者のいる御曹司から溺愛されました。

恩田璃星
恋愛
清永凛(きよなが りん)は平日はごく普通のOL、土日のいずれかは交通整理の副業に励む働き者。 副業先の上司である夏目仁希(なつめ にき)から、会う度に嫌味を言われたって気にしたことなどなかった。 なぜなら、凛には付き合って三年になる恋人がいるからだ。 しかし、そろそろプロポーズされるかも?と期待していたある日、彼から一方的に別れを告げられてしまいー!? それを機に、凛の運命は思いも寄らない方向に引っ張られていく。 果たして凛は、両親のように、愛の溢れる家庭を築けるのか!? *この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 *不定期更新になることがあります。

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

もう2度と関わりたくなかった

鳴宮鶉子
恋愛
もう2度と関わりたくなかった

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

処理中です...