俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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 またかいてしまった汗をシャワーで軽く流して、一緒にベッドに入った。1回寝たから寝付けないかも、なんて思ったけど問題はなくて、抱き合っていたらいつの間にか寝ていたらしい。2回の情事で疲れたのか、彼の温もりに安心したからかは分からないけれど。
 翌朝、少しだけ遅く起きたけれど、まだ許容範囲。お互いに身支度を済ませて、軽い朝食を取り、一緒に玄関に向かう。ここまではいつもと変わらない朝だった。ただ違ったのは、奈月が靴を履いて顔を上げた時。身を屈めた侑李が、軽く唇を重ねてきたこと。
 寝起きの状態でキスをされることには慣れてきたものの、出勤する格好になり、家を出ようとする時にはお互いに仕事モードに入っていて。キスだとか、ハグだとか、あまつさえ手繋ぎもしなかった。だから驚いて目を丸くして彼を見上げると、悪戯っぽく笑ったブルーの瞳がまた近付いてきて、唇に啄むようなキスをされる。

「侑李さん……?」

「すみません。我慢できなくて」

 そう言って微笑む彼に、我慢していたのか、とちょっと驚く。すると、彼ははぁ、とため息を吐いて髪をかき上げた。

「会社、行きたくなくなる……」

 品行方正な副社長の不真面目発言に、思わず吹き出す。すると、彼は目をすがめて奈月を見た。

「なんで笑うの」

「だって、侑李さんがそんなこと言うと思わなくて」

「俺だって、会社に行きたくない日だってあるよ」

 ムスッとした様子の彼が可愛いと思う。意地悪したかったわけじゃないけれど、奈月はお詫びを込めて彼の頬にキスをする。

「同じ気持ちで嬉しかっただけ。笑ってごめんなさい」

 奈月だって彼と同じだ。仕事は好きだけど、彼と離れがたい気持ちが強くて行きたくないという気持ちが心を支配する。好きな人ができると、周りが見えなくなるなんて良く言うけれど、それは本当なのだと初めて知った。

「嬉しいな……でも、お互い行かないとね」

 そっと抱き寄せられて、大きな背中に手を回す。高そうなスーツにファンデーションが付いたらいけないから、こめかみ辺りを彼の胸に付ける。

「うん。明日はお休み?」

「明日は夕方から出るかな。明後日は休みだよ」

 基本土日が休みの奈月に対して、彼のイベント会社は変則的な休みになることが多い。だが、社会人向けのイベントや企業を相手にしているから土日開催は他の会社より少ないようだ。運営自体は彼の部下たちがするが、社長の方針で立場関係なく動く彼らは多忙極まりない。

「街コン?」

「いや、今回のはちょっと本格的なお見合いパーティーかな。結婚相談所が企画したものだから」

「みんな出会いを求めてるんだね」

 仕事を中心に生きてきた奈月も、出会いを求めて街コンに参加した。奈月はあれが初めてだったが、亜也はいろんな出会いイベントに参加しているらしい。仕事で出会う人と恋愛関係になるのは万が一のことを考えて避けたいが、そうなると出会いそのものがないのだと言った亜也に、なるほどと思ったものだ。

「俺はあの日、奈月さんが来てくれて良かったと思った。そして、1人でいてくれて良かったと、心底感謝してる」

「運営側からしたら迷惑な参加者だったでしょう?」

「迷惑とは思わないけど、いつもなら異性と話すきっかけ作りを手助けしないといけないところだった。でも、俺があなたに興味を抱いていたから、他の男に譲るなんて、毛頭考えていなかったね」

 意外すぎる侑李の言葉に、奈月は思わず顔を上げて彼を見る。

「侑李さん、まさか最初から……」

「あ、奈月さん、時間。もう出ないとね」

 問いかけようとした奈月の言葉を遮って、侑李がドアを開けて背を押してきた。その手に促されるまま時計を確認すると、本当にヤバい時間。
 頭に浮かんだ疑問はすぐに吹っ飛んで、2人は慌てふためいて小走りにマンションを出ることになってしまった。
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