俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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「風磨」

「いや、悪い、そんなつもりなかったんだけど。香山さんも申し訳ない」

「え? いえ……」

 何を謝られているのかが分からない。戸惑う奈月を尻目に、侑李の肩をポンポンと叩いた風磨はじゃあ、とその場を立ち去ってしまう。背の高い侑李が目の前にいるので上手く状況が掴めない奈月は、こちらを向こうとしない侑李にそっと声をかける。

「ゆ……小鳥遊さん?」

 侑李、と呼ぼうとしてここは彼の会社だったと思い出し言い直すと、彼は何故かドアを閉めてしまう。

「あの……?」

「すみません」

 くるりとこちらを見た彼と一瞬だけ目が合った。驚く間もなく抱きすくめられ、顎にかかった指にそっと上を向かされて、唇が重なる。突然のことに目を開けたままだった奈月を、同じく目を開けたままの侑李の視線が射抜く。

「んっ……」

 後頭部を支えられ、唇を割って入ってきた彼の舌を受け入れる。ピチャピチャと唾液を絡めながら舌を吸われ、甘い声が鼻から抜けた。
ようやく唇が解放された時には互いに息が上がっていて、抱き寄せられるまま、彼の胸板に頬を寄せた。

「……すみません」

「びっくり、した」

「すみません」

 言いながら、彼の手が奈月の頭を撫でる。心地よさに目を細めながら、奈月は広い背中に腕を回した。

「ここ、侑李さんの会社なのに」

 彼の胸におでこをつけて、小さく呟く。ドアは閉めてるけど、万が一を考えて極力小さな声で。すると、ぎゅっと抱きしめる腕に力を込めた侑李が小さくため息を吐いた。

「自分がこんなに心が狭かったとは」

「え?」

 意外な言葉に顔を上げると、苦笑しながら彼が奈月の頬を撫でる。

「風磨に嫉妬しました。あなたを取られたくなくて、みっともない真似を」

 頬を撫でた手が奈月の後頭部に周り、また引き寄せられる。さっきの奪うようなキスとは違う、優しい啄むようなキス。今度はちゃんと目を閉じて、彼の唇の感触を味わうと、最後に下唇を吸われた。

「私が好きなのは、侑李さんです」

 離れていく唇が寂しいと思うのも、抱き寄せてくれる腕の力強さにもっと抱きしめて欲しいと思うのも、全部相手が侑李だからだ。

「それに、失礼ですけど、玉沖社長はちょっと苦手なタイプです」

 これは本当に聞かれたらまずいな、と判断し、背伸びして彼の耳元で囁いた。すると、クスッと笑った侑李は奈月の頬に軽く音を立ててキスをしてくる。

「良かった」

 そうして笑った顔は極上の笑みで、奈月も自然と笑顔を返す。
 そういえば、彼は前に奈月に嫌われるのが怖かったと話したことがある。彼は意外に怖がりなのかもしれない、とホッとした様子を見て思った。
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