俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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「食事、ですか?」

「ええ。今日は金曜日ですし。お酒は控えた方がいいでしょうから、ノンアルコールで」

 どうです、と微笑む彼にドキドキしてしまう。帰る家は同じだし、今の奈月は包丁も握れない。食事は彼任せになることは目に見えていて、外での食事の方が彼の負担は減るのかな、という結論に達する。
 頷いて見せると、笑みが深くなって、幻覚だろうが彼の周りに花が咲いているようにすら見える。

「では、このままここでお待ちください。荷物を取ってきます」

 そう言って応接室を出て行く侑李を見送り、ドアが閉まった途端、奈月は膝に顔を伏せる。

「心臓が持たないよ……」

 侑李に笑いかけられる度にドキドキと高鳴る心臓。人間を含を含め、動物は心臓が鼓動する回数が決まっているのだという。彼にドキドキする度、寿命が縮まっている思いだ。だが、彼との年齢差を考えたらそれでちょうどいいのかも、とも思った。

「って、最期まで一緒にいたいとか……どうかしてる」

 まだ付き合って間もないのに。これからどうなるかなんて分からないのに。

「こんなに好きになるなんて、思わなかった」

 男性に対して、好きだな、と感じることはあったけど。でも、遠くから見ているだけで満足だった。いわばそれは画面の向こうの芸能人に憧れるのに似た感覚で。触れたいとか、ずっと側にとか、思ったことすらなかったのに。

「どんどん欲張りになってく……」

 あんなイケメンが好きだと言ってくれて、お付き合いをして。それだけで幸せで奇跡みたいなことなのに。今まで侑李と2人きりで打ち合わせをしてきた亜也にも、奈月は若干嫉妬してしまっていた。仕事だし、担当に任命したのは奈月だし、彼女は今大変な目にあっているというのに。これでは上司失格だ。
 盛大にため息を吐き、身体を起こした時、ドアが開く。

「お待たせしました……どうしました?」

「いえ。何でも」

 立ち上がり、バッグを肩にかけて近付くと、有利の肩口からひょっこりと玉沖風磨が顔を覗かせた。

「あ、玉沖社長。いつもお世話になっております」

 一瞬驚いたが、奈月はすぐに営業スマイルを浮かべる。

「こんにちは、香山さん。打ち合わせは順調?」

「はい。この度は、こちらの都合でご迷惑を……」

「あ、いや。大丈夫ですよ。お身体ご自愛ください、と真壁さんにはお伝えください」

 ニッコリと微笑む風磨もまた侑李に負けず劣らずイケメンだ。でも、何となくチャラさが見える風磨に、勝手な苦手意識を持ってしまう。それでも取引先の社長さんなので粗相はできない、と奈月もニッコリ微笑む。

「ありがとうございます。真壁に伝えます」

「……香山さん、良いですね。その笑顔、とっても」

 風磨の視線に何となく違和感を感じる。微笑んでいるのだけど、その目が笑っていない。というか、ちょっと怪しい雰囲気。
 本能的に危険を感じて一歩後退ると、身体の向きを変え、風磨に向き直った侑李が奈月を背に庇うようにして立った。

「風磨、明日から出張だろう。早く帰った方がいいんじゃないのか」

 こちらに背を向けいるから、奈月から侑李の表情は見えない。だが、声がより低く鋭い気がして驚いた。風磨も驚いたように目を見張ったのだが、次の瞬間笑い出した。

「おまっ……」

 お腹を抱えて笑い出した風磨に奈月は戸惑うばかりだ。一頻り笑った風磨は、ヒーヒー言いながら目尻に浮かんだ涙を拭っている。
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