俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

文字の大きさ
上 下
54 / 96

10-1

しおりを挟む
 翌日、会社に向かった奈月は、いつも以上に仕事をこなした。というのも、少しでも手が開くと、昨夜のことを思い出してしまうから。そうなると恥ずかしすぎて居た堪れない。
 怪我をしたことで、心配をかけてしまったのは悪いと思うけど、まさか一緒に住むことになるなんて。おまけに食事の用意も彼が率先してしてくれて、まさに至れり尽くせりだった。
 お風呂まで手伝ってもらうことになるとは思わなかったけど、その後の甘い行為は男性経験のない奈月にはハードルが高すぎて。はじめての絶頂でまさかの寝落ちするわ、朝、裸で抱き合って目を覚ました時は心臓が止まるかと思った。
 けれど、起きてすぐに好きな人の顔を見れるというのはこんなに幸せな気持ちになるものか、と思った。奈月が起きたことに気付き、微笑む侑李はイケメン度が増していて、まだ少し眠たそうな顔はちょっと幼く感じた。これが毎日のことだと幸せすぎて心臓がいくつあっても足りない。だが、この同棲生活は奈月の怪我が治るまでだ。
 昼過ぎに病院に行き、亜也の見舞いも済ませ、夕方五時。侑李の会社と進めているプロジェクトは、奈月が引き継ぐことになった。
 応接室に通され、出されたお茶を飲んでいると、髪をかき上げながら侑李が入ってくる。慌てて立ち上がると、彼はフッと微笑んだ。

「すみません、お待たせしましたね」

「いえ、そんな」

 奈月の前に腰を下ろしながら、座るように促してくる侑李はスマートだ。だが、朝に見た姿より少し疲れが見える。何よりネクタイが僅かだが曲がっていて、髪も乱れていた。
 だが、付き合っているとはいえ、今は仕事中。いくら二人きりとはいえ、指摘するのはいかがなものか。それよりも、謝罪が先だ。

「この度は、こちらの都合で申し訳ございません」

「いいえ、不測の事態ですし、香山さんが引き継いで下さるなら安心です」

 ニッコリと微笑む侑李はやっぱりイケメンだな、と思う。たぶん営業スマイルなのだろうけど、この笑顔を見せられたら大概の女の子はコロッといってしまうのではないかと思う。亜也は彼との打ち合わせの内容を奈月に伝える時、事務的なことしか報告はして来なかったが、僅かでも恋心を抱いていたりしないのだろうか。

「真壁さんのお加減はいかがですか?」

「はい、お陰様で。幸い脳にも異常はないとのことで、私どもも安心しました」

「それは良かった。香山さんも無理はなさらないでくださいね。手伝えることがありましたらなんなりと仰ってください」

 手伝えること、という言葉に、身体がビクリと反応する。思わず息を詰めたのは、昨夜のことを思い出してしまったから。

「ありがとうございます」

 顔に貼り付けた営業スマイルだったが、声は若干震えていた気がする。少し乱れた彼の髪に、あの時はもっと、なんて脳内がピンクになりかけてしまい、慌てて邪念を振り払う。今は仕事をしに来ているのだ。目の前に彼氏がいて、2人きりだろうと、ちゃんと線引きはしなくては。

「で、では、会場についてですが……」

 もたもたと書類を広げ、仕事について話を進める。そうして話を始めれば、奈月の仕事スイッチはすぐに入る。
 打ち合わせは順調に進んだ。初回にも思ったことだが、所々挟まれる侑李の指摘は的確だ。副社長を務めるくらいだから当然なのだろうけど、やはり彼は仕事ができるのだなと再確認する。

「本日はお時間いただき、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。香山さん、この後は社にお戻りに?」

「あ、いえ。今日はこのまま直帰します」

 資料を片付けながら、ふと彼はどうなんだろうと思う。チラリと盗み見ると、彼はこちらを見ていたようで、ブルーの瞳とバッチリ目が合ってしまった。

「良かったら、この後お食事いかがですか?」

 ニッコリと微笑むイケメン。その破壊力にクラッとした。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

溺愛社長の欲求からは逃れられない

鳴宮鶉子
恋愛
溺愛社長の欲求からは逃れられない

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

冷徹上司の、甘い秘密。

青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。 「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」 「別に誰も気にしませんよ?」 「いや俺が気にする」 ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。 ※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

処理中です...