俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

文字の大きさ
上 下
47 / 96

9-1

しおりを挟む
 奈月のことを家に連れて来てしまったのは、かなり強引だったと自覚している。だが、亜也の件で電話口で明らかに動揺していたのが分かっていたのに、何もできなくて。もどかしさを感じていた中、彼女の怪我を知った。
 会社が別なのだし、例え一緒でも四六時中一緒にいられる訳じゃない。それでも侑李は悔しかった。彼女のことは自分が、と強い思いが湧き上がる。
 自分がこんなに独占欲が強い人間だと思わなかったな、と奈月から身体を離してその頬を撫でる。気持ち良さそうに目を細める奈月は猫のようだ。
 仕事の時はキリッとしているのを、打ち合わせの時に初めて知った。あの時は挨拶の後、目を合わせてくれなくなって、怒らせたのではと焦ったけれど。こうして侑李に身を預け、受け入れてくれていることにホッとする。
 ピンク色の唇に軽く音を立ててキスをする。一瞬、驚いたように見開かれた奈月の瞳は黒に近い茶色。恥ずかしげに微笑みながら、顎を上げ、目を閉じた彼女の唇を何度か啄むと甘い吐息を吐くから堪らない。
 思わず彼女の後頭部を支える手に力を入れて、背中に添えていた手で腰のラインを撫でた。

「あ……」

 聞こえて来た可愛らしい音楽。キスを止めて顔を上げると、軽やかな女性の声が風呂が焚けたことを告げる。

「お風呂、入っていいのかな?」

 家の中に入った時に給湯器のボタンを押していた。でも、ふと怪我をした当日にお風呂には入れなかっただろうかと思い至った。包帯を巻かれた手に視線をやると、彼女もまた同じように自分の手を見る。

「お風呂に浸かるのはダメなんで、軽く体を拭こうかと……」

「ああ、でもタオルが絞れないもんね」

 両手が使えないというのはやっぱり不便だ。家族と暮らしていれば手助けしてもらえるだろうが、一人暮らしではそうもいかない。

「じゃあ、風邪ひかないように、サッと身体拭こうか。手伝うよ」

「手伝うって……」

「だって、一人じゃ無理でしょ?」

「いや、でも……」

 侑李の家のお風呂は洗面所の先にある。背中を押して、洗面所に向かおうとすると、奈月がそっと離れる。

「一人で……」

「タオル絞れないのに?」

 視線を彷徨わせる奈月に問いかけながら、侑李は自分でも意地悪なことを言ったなと感じる。だが、一瞬言葉に詰まった後、こちらを睨んでくる奈月が可愛くて、悪いと思いつつ笑ってしまう。

「っ、意地悪です」

「そんな睨んでも、可愛いだけだよ」

 どうしてこんなに愛しいのだろう。笑った顔も、泣いた顔も、こうしてムスッと侑李を睨む顔ですら可愛いと思う。自分の頭がおかしくなったんじゃないかと思うくらい、彼女に夢中な自分に気付いてしまう。だが、ずっと警戒されるのは悲しいから、彼女を安心させるため、侑李は言葉を紡ぐ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

偽物のご令嬢は本物の御曹司に懐かれています

玖羽 望月
恋愛
 役員秘書で根っからの委員長『千春』は、20年来の親友で社長令嬢『夏帆』に突然お見合いの替え玉を頼まれる。  しかも……「色々あって、簡単に断れないんだよね。とりあえず1回でさよならは無しで」なんて言われて渋々行ったお見合い。  そこに「氷の貴公子」と噂される無口なイケメン『倉木』が現れた。 「また会えますよね? 次はいつ会えますか? 会ってくれますよね?」  ちょっと待って! 突然子犬みたいにならないで!  ……って、子犬は狼にもなるんですか⁈ 安 千春(やす ちはる) 27歳  役員秘書をしている根っからの学級委員タイプ。恋愛経験がないわけではありません! ただちょっと最近ご無沙汰なだけ。  こんな軽いノリのラブコメです。Rシーンには*マークがついています。  初出はエブリスタ(2022.9.11〜10.22) ベリーズカフェにも転載しています。  番外編『酸いも甘いも』2023.2.11開始。

【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。 地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。 ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。 イラスト提供 千里さま

溺愛社長の欲求からは逃れられない

鳴宮鶉子
恋愛
溺愛社長の欲求からは逃れられない

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

完結*三年も付き合った恋人に、家柄を理由に騙されて捨てられたのに、名家の婚約者のいる御曹司から溺愛されました。

恩田璃星
恋愛
清永凛(きよなが りん)は平日はごく普通のOL、土日のいずれかは交通整理の副業に励む働き者。 副業先の上司である夏目仁希(なつめ にき)から、会う度に嫌味を言われたって気にしたことなどなかった。 なぜなら、凛には付き合って三年になる恋人がいるからだ。 しかし、そろそろプロポーズされるかも?と期待していたある日、彼から一方的に別れを告げられてしまいー!? それを機に、凛の運命は思いも寄らない方向に引っ張られていく。 果たして凛は、両親のように、愛の溢れる家庭を築けるのか!? *この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 *不定期更新になることがあります。

初恋は溺愛で。〈一夜だけのはずが、遊び人を卒業して平凡な私と恋をするそうです〉

濘-NEI-
恋愛
友人の授かり婚により、ルームシェアを続けられなくなった香澄は、独りぼっちの寂しさを誤魔化すように一人で食事に行った店で、イケオジと出会って甘い一夜を過ごす。 一晩限りのオトナの夜が忘れならない中、従姉妹のツテで決まった引越し先に、再会するはずもない彼が居て、奇妙な同居が始まる予感! ◆Rシーンには※印 ヒーロー視点には⭐︎印をつけておきます ◎この作品はエブリスタさん、pixivさんでも公開しています

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

処理中です...