俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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「ごめんなさい、ちょっと切っちゃって」

「切った?」

「あー……切られ、た?」

 へへっと笑うと呆れた顔をされた。靴を脱いで上がってきた侑李は、奈月が差し出した包帯ぐるぐる巻きの手に触ろうとして、辞めた。その代わり、彼はそっと奈月の頬を撫でる。

「真壁さんの病室に元カレがいて、彼女にナイフを突きつけていて……」

「ナイフ?!」

「犯人は捕まりました。でも、間に入った時に、こう……横にナイフを振り払うみたいにされたとこに、ちょうど手を出しちゃって手のひらを……」

「間に入ったって、危険だろう!」

 身ぶりを加えて出来るだけ明るく説明していた奈月は、声を荒げる侑李に驚く。いつも微笑んで、大人な余裕のある彼しか見たことがなかった。こんなに感情を露にしてるのは、それだけ心配してくれているってことだろう。

「どうしてすぐに人を呼ばなかったんだ」

 奈月の頬に触れている侑李の手が僅かに震えている。奈月を見つめるブルーの瞳が、苦しげに揺れていた。それを見て、今の彼は昨日の自分のようだと感じた。

「ごめんなさい」

「相手はナイフを持っていたんだろう。女性のあなたが勝てるわけがない」

「でも、真壁さんを放っておけなかった」

 彼女の首元にはナイフが突きつけられていた。それは奈月程、深くはなかったが、彼女も血が滲む程には傷を負わせていたのだ。あのままだったら、亜也がどうなっていたか分からない。

「だとしても……」

 言いかけて、侑李が唇を噛む。言いたいことはすごく分かる。自分でも、結果的には良かったと思うが、これが最善だったとは思っていない。だから、謝るしかできない。

「ごめんなさい、心配かけて」

「謝らないで……無事で、良かった」

 そっと抱き寄せられて、彼の胸に顔を埋める。その背に腕を回して、息を吐くと手のひらを切られただけで済んで良かったと心から思った。

「傷は? 痛む?」

「少し。でも、痛み止めが効いてるから」

「両手のどの辺り?」

「えっと、ここからここ辺りまで……」

 身体を離した彼に怪我の位置を指し示す。すると、手の甲の部分に手を添えて、彼はため息を吐いた。

「本当に、無茶しないで。奈月さんの優しいところは大好きだけど、それで怪我をされたら寿命が縮む」

「それは、困ります」

 人間、いつ死ぬかなんて分からないけど。彼とずっと一緒にいたい。そのためには、共に長生きをしなくては。
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