俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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 舌打ちしてナイフを振りかぶった男が向かってくる。奈月は手に残されたお菓子の箱を袋ごと投げつける。さっきから投げてばっかりで芸がない、と思いながらそれしかできないのだから仕方がない。
 だが、お菓子の箱は軽いものだったし、男の胸元に見事命中はしたがあまり意味はなかった。勢いは多少殺せたかもしれないが、向かってくる男を止めるには至らず、奈月は亜也を背に庇ったまま自分の身も守ろうと反射的に手を掲げた。

「っ……」

「主任……!」

 痛みを感じたのは手のひら。男が振り払うようにして振るったナイフの切先が、奈月の右の手のひらから左の手のひらにかけてザックリと抉る。ジクジクと痛む両手にかけて走った一筋の傷から、鮮血が垂れて床にポタポタと落ちる。

「何をしてる?!」

 奈月の言葉で誰かが呼んでくれたのか、駆け込んできた警備員が男に掴みかかる。ナイフを取り上げられ、取り押さえられた男が酷い悪態を奈月と亜也に投げかける。男の喚き散らす声を聞きながら、力が抜けた奈月はその場にへたり込む。すると、亜也が背中に抱きついて来た。

「主任……ごめんなさい……」

「大丈夫よ。真壁さん、首は?」

「主任の怪我の方が……本当にごめんなさい」

 背中に縋りつき、啜り泣く亜也の頭を撫でてやりたいが生憎手のひらは血塗れだ。痛いし、今になって恐怖感に襲われて足が震えてきた。
駆け寄ってきた看護師たちに手のひらの傷を見せながら、奈月は泣いている亜也に優しく声をかける。とにかく犯人は捕まったのだ。その事に、奈月はホッと胸を撫で下ろす。
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