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翌日。昼休みを利用して、奈月は亜也を見舞うため病院に足を運んだ。悩んでも答えは出ないまま。ただ、今、亜也のためにできることを考えた末、彼女が明るい気持ちになれるよう、こちらも明るく接するべきだという結論に達する。
彼女の同僚である男性社員から預かったお土産を手に、病室に向かった奈月は、ドアを開ける前に一度深呼吸した。なるべくいつも通りにしよう、と心を落ち着ける。だが、その時。だが、奈月の手がドアにかかったその時、中から何かが割れる音がした。
「いやぁ!」
次いで中から聞こえた悲鳴に、嫌な予感がした。ドアを勢いよく開いた奈月は、中の光景に絶句する。
「何してるの!?」
ベッドの上で揉み合う男女。馬乗りになった男に組み敷かれた亜也の姿に心臓が止まりそうになる。涙で濡れた彼女の瞳が、奈月を見た。同時に男もこちらを見る。
「なんだ、お前。邪魔すんな!」
「主任、逃げて……!」
正直、怖くて足が震える。だが、亜也の首に刃物が突きつけられているのを見て、考えるより先に身体が動いていて。気付けば、バッグを男に向かって投げつけていた。
「っ、あぶねーなぁ!」
反射神経がいいのか、避けられた。A4ファイルも余裕で入る奈月のバッグは大きな音を立てて壁にぶつかり床に落ちる。同時に中身が飛び出して、ポーチや筆箱が床に散らばった。
当たりはしなかったけれど、奈月が放った一打で男は後退り、亜也から引き離すことには成功した。病室内に駆け込みながら、亜也を背に庇ったものの、奈月には武器も盾になるものもない。今、手に残っているのはお見舞いとして預かった出張土産のお菓子だけ。
「どけよ、オバサン」
イラついた様子でナイフを弄ぶ男は、見た目は悪くない普通の男性だった。いや、ちょっとチャラい、というか不良っぽい。カーキーのジャケットに、ダメージジーンズ。足元は裸足の上にクロックスを履いていて、寒くないのか、とあらぬ心配をしてしまう。
この男が亜也の元彼なのだろう。彼女の男の趣味は知らないが、こんなガラの悪そうな男と付き合っていたとは驚きだ。しかも、奈月をオバサン呼ばわり。まぁ、もうすぐ30歳だし、彼の歳が亜也と変わらないなら、オバサン呼ばわりされても仕方ないのだろうか。
「聞いてんのか、どけ!」
鋭い言葉に、男を睨み付ける。亜也が庇おうとした男だから、できれば穏便に済ませたいけれど、相手が刃物を持っていてはそうはいかない。軽く唇を噛みつつ、どうしよう、と思っていると病室の入口に影が落ちた。
「誰か! 警備員、呼んでください!」
騒ぎを聞きつけたのだろう。何事かと部屋を覗き込んできたらしい人影に向かって声を上げる。入院患者だったら、ちょっと申し訳ない気もするが、今はその辺に構っている余裕はない。
廊下がにわかに騒がしくなり、慌ただしい足音が聞こえた。
「この……余計なことしてんじゃねぇ!」
「きゃ……っ」
彼女の同僚である男性社員から預かったお土産を手に、病室に向かった奈月は、ドアを開ける前に一度深呼吸した。なるべくいつも通りにしよう、と心を落ち着ける。だが、その時。だが、奈月の手がドアにかかったその時、中から何かが割れる音がした。
「いやぁ!」
次いで中から聞こえた悲鳴に、嫌な予感がした。ドアを勢いよく開いた奈月は、中の光景に絶句する。
「何してるの!?」
ベッドの上で揉み合う男女。馬乗りになった男に組み敷かれた亜也の姿に心臓が止まりそうになる。涙で濡れた彼女の瞳が、奈月を見た。同時に男もこちらを見る。
「なんだ、お前。邪魔すんな!」
「主任、逃げて……!」
正直、怖くて足が震える。だが、亜也の首に刃物が突きつけられているのを見て、考えるより先に身体が動いていて。気付けば、バッグを男に向かって投げつけていた。
「っ、あぶねーなぁ!」
反射神経がいいのか、避けられた。A4ファイルも余裕で入る奈月のバッグは大きな音を立てて壁にぶつかり床に落ちる。同時に中身が飛び出して、ポーチや筆箱が床に散らばった。
当たりはしなかったけれど、奈月が放った一打で男は後退り、亜也から引き離すことには成功した。病室内に駆け込みながら、亜也を背に庇ったものの、奈月には武器も盾になるものもない。今、手に残っているのはお見舞いとして預かった出張土産のお菓子だけ。
「どけよ、オバサン」
イラついた様子でナイフを弄ぶ男は、見た目は悪くない普通の男性だった。いや、ちょっとチャラい、というか不良っぽい。カーキーのジャケットに、ダメージジーンズ。足元は裸足の上にクロックスを履いていて、寒くないのか、とあらぬ心配をしてしまう。
この男が亜也の元彼なのだろう。彼女の男の趣味は知らないが、こんなガラの悪そうな男と付き合っていたとは驚きだ。しかも、奈月をオバサン呼ばわり。まぁ、もうすぐ30歳だし、彼の歳が亜也と変わらないなら、オバサン呼ばわりされても仕方ないのだろうか。
「聞いてんのか、どけ!」
鋭い言葉に、男を睨み付ける。亜也が庇おうとした男だから、できれば穏便に済ませたいけれど、相手が刃物を持っていてはそうはいかない。軽く唇を噛みつつ、どうしよう、と思っていると病室の入口に影が落ちた。
「誰か! 警備員、呼んでください!」
騒ぎを聞きつけたのだろう。何事かと部屋を覗き込んできたらしい人影に向かって声を上げる。入院患者だったら、ちょっと申し訳ない気もするが、今はその辺に構っている余裕はない。
廊下がにわかに騒がしくなり、慌ただしい足音が聞こえた。
「この……余計なことしてんじゃねぇ!」
「きゃ……っ」
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