俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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「あ、日高部長……香山主任も……」

「真壁さん……大丈夫?」

 個室のベッドに横になる亜也が起き上がろうとするのを、万里江が止める。

「何があったの? 事故に遭ったなんて……」

「すみません、不注意で……」

 意識はハッキリしているようでホッとする。だけど、頭には包帯が巻かれ、頬にもガーゼが張り付けてある。右腕には点滴、左腕はギブスをはめている姿は痛々しかった。
 亜也は不注意と言うが、その言い方に歯切れの悪さを感じる。入院について話してくる、と万里江が席を立ったので、椅子に座った奈月はそっと亜也の右手に触れる。

「すみません、主任。あの、打ち合わせは……」

「小鳥遊さんから連絡をもらったの。あなたが来てないって。それとほぼ同時くらいに病院から連絡が来て、先方には詳しいことは伝えてないけど、打ち合わせはまた後日になったから安心して」

 やはり彼女は責任感が強い。だが、今は身体のことが第一だ。

「それより、事故に遭ったって。連絡もらった時には驚いたわ」

 奈月の元に入った連絡は、亜也が車に轢かれて病院に搬送されたということ。そして、頭を強く打ったらしいということだ。
 彼女が事故に遭ったのは会社から程近い交差点。侑李との打ち合わせのために、彼の会社に向かっている最中だったのだろう。ただ気になるのはその際、歩行者側の信号が青だったということだ。

「……信号待ちしてる時、フラついてしまって」

「本当?」

 俯いた亜也の表情が気になって、彼女の手を優しく握る。じっと見つめていると、奈月の手の甲にポタリと涙が落ちる。

「真壁さん……」

「ごめんなさい、泣くなんて、私……」

「ううん、言いたくなければ無理しなくていい。ただ、あなたが心配なの。仕事のことで悩んでいたなら、私にも責任があるし」

「違いますっ、主任は悪くなんて……っ」

 顔を上げた彼女の頬を伝い落ちる涙。奈月を見て、唇を噛む彼女をそっと抱き寄せ、背中をゆっくりと撫でる。
 助けを求めるように縋り付いてきた亜也は、嗚咽を漏らす。その悲痛な声を聞きながら、奈月は彼女が何か悩みを抱えていたのだと知った。
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