俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

文字の大きさ
上 下
29 / 96

6-1

しおりを挟む
急に浮上した意識に、目を開けた奈月は一瞬何が何だか分からなくなった。薄暗い部屋。背中にはフカフカの布団の感触。肩までしっかりと覆う掛け布団からは、いい匂いがする。
ぼんやりと天井を見ていると、だんだんと目が暗さに慣れてきて、頭も覚醒する。そうなってきてようやく、奈月は自分の状況が分かってくる。

「奈月さん、起きた?」

 足元にあるドアが開き、低い美声が聞こえた。人が入ってきた気配に上体を起こすと、電気が付いて眩しさを感じる。

「ああ、ごめん。眩しいよね」

 すぐに調光にされ、瞬きを繰り返すと目はすぐに明るさに慣れた。奈月の側に腰掛けた侑李が、ペットボトルの水を差し出して来る。

「酔って寝ちゃったんだ。覚えてる?」

「……はい」

 タクシーに乗せられ、そのまま寝落ちしたことを思い出した。もらった水を飲みながら、穴があったら入りたい気分に襲われる。

「ここ、侑李さんの……」

「そう。奈月さんが帰りたくないって言ったから」

「え?」

 侑李の言葉に水を吹き出しそうになる。すると彼はティッシュを差し出しながら、乱れた奈月の髪を撫でた。

「覚えてない? 家に送るって言ったら、やだって言ったんだ。だから、俺の家に連れてきたんだよ」

 ハッキリとは思い出せない。だが、彼が嘘を言ってるとは思えなくて、奈月は頭を抱えたくなった。

「ごめんなさい、とんだご迷惑を……」

 一体この人の前でいくつ失態を演じたらいいのだろう。しかも大抵がお酒のせいのような気がする。これはもう、飲むなというお告げだろうか。

「いいんだ。俺も帰したくなかったし」

「え?」

「奈月さんをお持ち帰りする、いい口実ができて、良かった」

 嬉しそうに笑うこの人は、いったいどこまで本気なんだろう。愛おしそうに頬を撫でられると、くすぐったさに身体が震えてしまう。

「いま、何時……?」

「2時だよ」

「そんな時間……」

「だから、今から帰るとか言わないでね?」

 頬にあった手が離れたと思ったら、今度は手を握られる。

「い、言いません」

「良かった」

 ドキドキしながら首を振ると、とっても嬉しそうに微笑まれた。

「まだ眠いでしょ、ゆっくり休んで」

「侑李さんは……」

 手を離した彼が立ち上がる気配に、思わず言葉が出る。浮かしかけた腰を再び下ろした彼が微笑む。

「リビングにいるよ。ここは奈月さんが使って」

「そんな、私がリビングに……」

「いえ、あなたはここで」 

「でも……」

 強く言われて押し切られそうになるが、ここは彼の家で、彼のベッド。奈月のことを気遣ってくれるのはありがたいが、酔って迷惑をかけた上にベッドまで奪うのは申し訳なさすぎる。

「私、本当に迷惑しかかけてないですね……」

 酔っていたとはいえ、帰りたくないなんてワガママを自分が口走るとは。自己嫌悪に落ち入り、思わず溢れた呟き。その声を拾い上げた侑李が首を振る。

「迷惑だなんて思ってない」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。 地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。 ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。 イラスト提供 千里さま

溺愛社長の欲求からは逃れられない

鳴宮鶉子
恋愛
溺愛社長の欲求からは逃れられない

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

初恋は溺愛で。〈一夜だけのはずが、遊び人を卒業して平凡な私と恋をするそうです〉

濘-NEI-
恋愛
友人の授かり婚により、ルームシェアを続けられなくなった香澄は、独りぼっちの寂しさを誤魔化すように一人で食事に行った店で、イケオジと出会って甘い一夜を過ごす。 一晩限りのオトナの夜が忘れならない中、従姉妹のツテで決まった引越し先に、再会するはずもない彼が居て、奇妙な同居が始まる予感! ◆Rシーンには※印 ヒーロー視点には⭐︎印をつけておきます ◎この作品はエブリスタさん、pixivさんでも公開しています

冷徹上司の、甘い秘密。

青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。 「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」 「別に誰も気にしませんよ?」 「いや俺が気にする」 ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。 ※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。

完結*三年も付き合った恋人に、家柄を理由に騙されて捨てられたのに、名家の婚約者のいる御曹司から溺愛されました。

恩田璃星
恋愛
清永凛(きよなが りん)は平日はごく普通のOL、土日のいずれかは交通整理の副業に励む働き者。 副業先の上司である夏目仁希(なつめ にき)から、会う度に嫌味を言われたって気にしたことなどなかった。 なぜなら、凛には付き合って三年になる恋人がいるからだ。 しかし、そろそろプロポーズされるかも?と期待していたある日、彼から一方的に別れを告げられてしまいー!? それを機に、凛の運命は思いも寄らない方向に引っ張られていく。 果たして凛は、両親のように、愛の溢れる家庭を築けるのか!? *この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 *不定期更新になることがあります。

処理中です...