俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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急に浮上した意識に、目を開けた奈月は一瞬何が何だか分からなくなった。薄暗い部屋。背中にはフカフカの布団の感触。肩までしっかりと覆う掛け布団からは、いい匂いがする。
ぼんやりと天井を見ていると、だんだんと目が暗さに慣れてきて、頭も覚醒する。そうなってきてようやく、奈月は自分の状況が分かってくる。

「奈月さん、起きた?」

 足元にあるドアが開き、低い美声が聞こえた。人が入ってきた気配に上体を起こすと、電気が付いて眩しさを感じる。

「ああ、ごめん。眩しいよね」

 すぐに調光にされ、瞬きを繰り返すと目はすぐに明るさに慣れた。奈月の側に腰掛けた侑李が、ペットボトルの水を差し出して来る。

「酔って寝ちゃったんだ。覚えてる?」

「……はい」

 タクシーに乗せられ、そのまま寝落ちしたことを思い出した。もらった水を飲みながら、穴があったら入りたい気分に襲われる。

「ここ、侑李さんの……」

「そう。奈月さんが帰りたくないって言ったから」

「え?」

 侑李の言葉に水を吹き出しそうになる。すると彼はティッシュを差し出しながら、乱れた奈月の髪を撫でた。

「覚えてない? 家に送るって言ったら、やだって言ったんだ。だから、俺の家に連れてきたんだよ」

 ハッキリとは思い出せない。だが、彼が嘘を言ってるとは思えなくて、奈月は頭を抱えたくなった。

「ごめんなさい、とんだご迷惑を……」

 一体この人の前でいくつ失態を演じたらいいのだろう。しかも大抵がお酒のせいのような気がする。これはもう、飲むなというお告げだろうか。

「いいんだ。俺も帰したくなかったし」

「え?」

「奈月さんをお持ち帰りする、いい口実ができて、良かった」

 嬉しそうに笑うこの人は、いったいどこまで本気なんだろう。愛おしそうに頬を撫でられると、くすぐったさに身体が震えてしまう。

「いま、何時……?」

「2時だよ」

「そんな時間……」

「だから、今から帰るとか言わないでね?」

 頬にあった手が離れたと思ったら、今度は手を握られる。

「い、言いません」

「良かった」

 ドキドキしながら首を振ると、とっても嬉しそうに微笑まれた。

「まだ眠いでしょ、ゆっくり休んで」

「侑李さんは……」

 手を離した彼が立ち上がる気配に、思わず言葉が出る。浮かしかけた腰を再び下ろした彼が微笑む。

「リビングにいるよ。ここは奈月さんが使って」

「そんな、私がリビングに……」

「いえ、あなたはここで」 

「でも……」

 強く言われて押し切られそうになるが、ここは彼の家で、彼のベッド。奈月のことを気遣ってくれるのはありがたいが、酔って迷惑をかけた上にベッドまで奪うのは申し訳なさすぎる。

「私、本当に迷惑しかかけてないですね……」

 酔っていたとはいえ、帰りたくないなんてワガママを自分が口走るとは。自己嫌悪に落ち入り、思わず溢れた呟き。その声を拾い上げた侑李が首を振る。

「迷惑だなんて思ってない」
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