俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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 間近で見る彼女の頬が僅かに赤い。周りからイケメンだともてはやされて来た侑李だが、そのことで良かったと思えたことはない。だが今、ようやく自分の容姿に感謝した。

「私、面倒臭い女だと思いますよ。恋愛の経験も……浅いですし」

 僅かな間。そこに隠された彼女の事情は見て見ぬ振りをする。

「分かってませんね。それは男からすると、そそられることですよ」

彼女を安心させたくて、優しく言うとさらに赤くなる頬。少しでもいい。彼女の心が欲しい。これまで侑李の容姿だけを見て、近付いて来る女性たちにうんざりしていたのに、彼女を繋ぎ止めるためならこの容姿も利用しようと今は思ってしまっている。
だが、それだけ侑李は香山奈月という人に夢中だった。
可愛いと言うと頬を真っ赤に染め、恥ずかしそうにする仕草も。侑李の知らない名前のことや小説の話を教えてくれる軽やかな声も。彼女の全てが愛おしい。
はじめてのデートで食事場所に馴染みの店を選んだのは、そこの夫婦にそれとなく彼女を紹介するためだった。第2の親のような立ち位置で、侑李を見守ってくれていたフランス人夫婦は、奈月を気に入ったらしい。食事の際、マダムが満面の笑みで声をかけてきた時はさすがに驚いたが。

『ユーリが彼女を紹介してくれるなんてね。しかもこんな可愛らしいお嬢さん! あなた、彼女を手放しちゃダメよ?』

ネイティブのフランス語に、戸惑う様子の彼女にはマダムの言葉は分からなかったようだけど、こっちは気が気じゃない。まだきちんとデートしたのは1回目。口説いている最中だ。今のところ、引かれたりはしていないけれど、恐らく男性と付き合ったことのない彼女のことだ。街コンで尻込みしている姿を見ているだけに、なるべく慎重に行きたい。
帰り際、酔っ払った様子の彼女が欠伸したのを可愛いと思いながら、家まで送ろうとタクシーを停める。先に乗り込んだ彼女の身体がフラフラと傾ぐので、笑ってしまいそうになりながら声をかけた。

「奈月さん?」

 この時まで、侑李は彼女を無事に家に送り届けようと思っていた。なのに。

「ゃだ……」

 顔が近かったから聞こえた、微かな声。おまけに胸元に寄り掛かった彼女が、頬を擦り寄せニコッと笑うので、こちらも思わず笑ってしまった。同時に肩に回した手に力がこもる。
顔を上げた侑李は、運転手に自分のマンションの住所を告げる。起きた奈月はどんな反応をするだろう。
彼女は容姿だけで判断しない人だと思うけど、侑李自身を好きになってもわらなくては意味がない。だからもっと、自分のことを知ってもらおう。そして侑李も、彼女のことがもっと知りたいと強く思っていた。

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