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もし知り合いだったら悪いな、と思ったものの、彼女のホッとした様子を見て助けられたことに安堵した。そして、ジャケットのシミ取りを申し出た彼女に自然と頬が緩んだ。消極的なわりに、律儀で、そのためなら簡単に折れる事はしない。会場に入る前に友人らしき女性を手助けしていたことからも、気配りができる女性なのが分かる。そして何より、シミ取りペンを手に、真剣な様子でシミ抜きする姿がツボだった。
歳を聞けば、彼女から距離を置かれるかと思ったが、反応は上々。他愛もない会話なのに、彼女の弾むような声を聞いているだけで心地よくて、自分の口も滑らかになる。ただ、こちらの勝手な懸念から、勤め先と肩書きに嘘をついたことは気掛かりになった。この嘘がいつバレるか。バレたらどう思われるか、不安で仕方がない。侑李はこの時すでに、彼女に嫌われることを恐れていた。
たった一度会っただけの女性。少し会話しただけなのに、もらった名刺を毎日のように見つめ、プライベートの連絡先を聞かなかったことを心底後悔していた。それだけに、舞い込んだ新しい仕事の相手が彼女の会社だと気付いて期待を抱いた。営業職だと聞いていたから、もしかしたら会えるかもしれない。彼女は営業主任だから、実際来るのは彼女の部下かもしれないが。
そうやって、期待しては打ち消すことを繰り返していたから、彼女の姿を見た時の自分はたぶんこれまでにないアホ面だったかもしれない。その表情を見て嫌われたかと思っていたが、違ったらしい。肩書きを偽ったことも怒っていないと言われて、驚くと同時に嬉しかった。そして、副社長と分かったから仕事の時はそれなりに対応する、と言った彼女にやっぱりかと思う。だが。
「プライベートは別ですから」
そう言って微笑む彼女が眩しく見える。同時に好きな気持ちを再確認して、気付けば彼女に顔を寄せていた。
「では……あなたを気兼ねなく、口説いて構いませんか?」
「口説くんですか?」
「ええ、これまでもずっと口説いていたつもりです」
歳を聞けば、彼女から距離を置かれるかと思ったが、反応は上々。他愛もない会話なのに、彼女の弾むような声を聞いているだけで心地よくて、自分の口も滑らかになる。ただ、こちらの勝手な懸念から、勤め先と肩書きに嘘をついたことは気掛かりになった。この嘘がいつバレるか。バレたらどう思われるか、不安で仕方がない。侑李はこの時すでに、彼女に嫌われることを恐れていた。
たった一度会っただけの女性。少し会話しただけなのに、もらった名刺を毎日のように見つめ、プライベートの連絡先を聞かなかったことを心底後悔していた。それだけに、舞い込んだ新しい仕事の相手が彼女の会社だと気付いて期待を抱いた。営業職だと聞いていたから、もしかしたら会えるかもしれない。彼女は営業主任だから、実際来るのは彼女の部下かもしれないが。
そうやって、期待しては打ち消すことを繰り返していたから、彼女の姿を見た時の自分はたぶんこれまでにないアホ面だったかもしれない。その表情を見て嫌われたかと思っていたが、違ったらしい。肩書きを偽ったことも怒っていないと言われて、驚くと同時に嬉しかった。そして、副社長と分かったから仕事の時はそれなりに対応する、と言った彼女にやっぱりかと思う。だが。
「プライベートは別ですから」
そう言って微笑む彼女が眩しく見える。同時に好きな気持ちを再確認して、気付けば彼女に顔を寄せていた。
「では……あなたを気兼ねなく、口説いて構いませんか?」
「口説くんですか?」
「ええ、これまでもずっと口説いていたつもりです」
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