23 / 96
4-5
しおりを挟む
夜ご飯は侑李の行きつけだというお店に行った。フランスの家庭料理がメインだというその店は、店内もアットホームで堅苦しさもなく、居心地が良かった。フランス人の夫婦が営むお店で、日本語は2人ともペラペラらしいのだが、侑李にはフランス語で話しかけてきた。祖母がフランス人だと聞いていたが、フランス語がそんなにペラペラだとは思わず、奈月はただただ圧倒される。
話の最中、食事を運んできたマダムから恐らく奈月のことを何か言われたのだが、フランス語なので理解できない。助けを求めるように侑李を見たが、彼はすぐに目を逸らしてしまった。その横顔がほんのり赤い気がしたが、結局、何と言われたのかは分からずじまいだった。
「フランス語、すごいですね」
「祖母はフランス語だったから。まぁ、日本語も話せたんだけどね」
そういえば、彼の祖母はフランス人だと言っていた。
「その時の先生なんだ、ここのご夫婦は」
「ああ、なるほど」
「このお店もその当時からやられてて、祖母もここの料理が好きでね。家族全員で常連なんだ」
「本当に、美味しいです。お料理も、お酒も」
侑李が選んだグラスワインは、飲みやすかった。そのせいでいつもよりペースが早くなっているのに気付いて、奈月は途中で水を口に含む。出されるフランスの家庭料理も美味しくて、次々頬張ってしまう。見るのも食べるのも全てが初めてで、名前の一つも覚えきれなかったが、ホッとする味がした。
「美味しかったです。ごちそうさまでした」
お店の外に出て侑李に向かって深々と頭を下げる。奈月に財布を出させず、彼は当然のように支払いを済ませてしまった。映画の代金も支払ってもらったし、まさに至れり尽くせり。
アルコールが入っているのもあってか、気持ちの浮き足立っている奈月は顔を上げてニコリと笑う。たぶん、頬は赤いだろう。
「奈月さん、大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
足元は意外としっかりしているのだけど、心配した侑李が腰に手を添えてくれる。彼の腕にもたれながら、奈月は欠伸を噛み殺す。
「眠い?」
クスッと笑った彼に聞かれて、素直に頷く。お酒は弱くはないが、強くもない。そして、奈月は酔うと大抵、眠気に襲われる。
「家まで送ろう」
そう言って侑李はタクシーを停める。乗り込むよう促され、先に乗ったものの、座れた安心感からか、眠気がどんどんやって来る。
「奈月さん?」
遠くで聞こえる侑李の声に、無意識に何かを言った。すると、笑った彼が奈月の頭を撫でて運転手に行き先を告げる。走り出した車内で、彼に抱き寄せられるまま肩にもたれて。あったかいな、と思いながら、奈月は安心しきって夢の世界に旅立った。
話の最中、食事を運んできたマダムから恐らく奈月のことを何か言われたのだが、フランス語なので理解できない。助けを求めるように侑李を見たが、彼はすぐに目を逸らしてしまった。その横顔がほんのり赤い気がしたが、結局、何と言われたのかは分からずじまいだった。
「フランス語、すごいですね」
「祖母はフランス語だったから。まぁ、日本語も話せたんだけどね」
そういえば、彼の祖母はフランス人だと言っていた。
「その時の先生なんだ、ここのご夫婦は」
「ああ、なるほど」
「このお店もその当時からやられてて、祖母もここの料理が好きでね。家族全員で常連なんだ」
「本当に、美味しいです。お料理も、お酒も」
侑李が選んだグラスワインは、飲みやすかった。そのせいでいつもよりペースが早くなっているのに気付いて、奈月は途中で水を口に含む。出されるフランスの家庭料理も美味しくて、次々頬張ってしまう。見るのも食べるのも全てが初めてで、名前の一つも覚えきれなかったが、ホッとする味がした。
「美味しかったです。ごちそうさまでした」
お店の外に出て侑李に向かって深々と頭を下げる。奈月に財布を出させず、彼は当然のように支払いを済ませてしまった。映画の代金も支払ってもらったし、まさに至れり尽くせり。
アルコールが入っているのもあってか、気持ちの浮き足立っている奈月は顔を上げてニコリと笑う。たぶん、頬は赤いだろう。
「奈月さん、大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
足元は意外としっかりしているのだけど、心配した侑李が腰に手を添えてくれる。彼の腕にもたれながら、奈月は欠伸を噛み殺す。
「眠い?」
クスッと笑った彼に聞かれて、素直に頷く。お酒は弱くはないが、強くもない。そして、奈月は酔うと大抵、眠気に襲われる。
「家まで送ろう」
そう言って侑李はタクシーを停める。乗り込むよう促され、先に乗ったものの、座れた安心感からか、眠気がどんどんやって来る。
「奈月さん?」
遠くで聞こえる侑李の声に、無意識に何かを言った。すると、笑った彼が奈月の頭を撫でて運転手に行き先を告げる。走り出した車内で、彼に抱き寄せられるまま肩にもたれて。あったかいな、と思いながら、奈月は安心しきって夢の世界に旅立った。
0
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
二人の甘い夜は終わらない
藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい*
年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる