俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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 仕事の話も無事に終わり、ホッとしたのもつかの間。風磨の誘いにより、奈月たちは小野原グループ系列のバーに来ていた。
 さすが大人な雰囲気のバーは物静かで、出されるカクテルも美味しい。だが、それを楽しむ余裕が今の奈月にはなかった。侑李がずっとこちらを見ているのはわかっている。だが、奈月はその視線からずっと意識的に逃げていた。
 途中でトイレに立った奈月は、自然と固まっていた身体をうーんと伸ばし、脱力して壁にもたれてため息を吐いた。
 商談の時からだが、明らかに侑李を意識してしまっている。たぶん、それは彼にもバレているだろうが、普通にしなければと思うほど上手くできない。彼を視界に入れなければまだ平静は保てているが、何となく視線を感じるとぎこちなくなってしまう。こんなことは初めてだ。
 だが、いつまでも戻らない訳にもいかない。そう思いながら、またため息を吐いた時だった。

「奈月さん」

「え? あ……」

 低い美声に呼ばれて反射的に顔を上げた。そこにいたのは侑李で、少し険しい顔でこちらに近付いて来るのが見える。

「大丈夫ですか?」

「はい。すみません、今、戻ります」

 ニッコリと営業スマイルを浮かべる。取引先の人に迷惑をかける訳にはいかない。それに相手は副社長なのだ。粗相があってはならない。

「待ってください」

 彼もトイレに行くのだと思い、道を譲ろうと奈月は彼の脇を足早に通り抜けようとした。だが、そんな彼女の腕を彼が掴んで止めた。驚いて彼を見上げる。

「……怒ってますか?」

「え?」

 予想外の言葉に驚き、顔を上げるとブルーの瞳揺れている。その表情が今にも泣きそうに見えて、奈月は驚いた。

「怒ってますよね?」

 もう一度聞かれて、首を傾げる。奈月が怒る要素などないように思うのだが。

「怒ってません」

「ですが、あなたは俺と目を合わせてくれなかった」

 ふっと彼の表情に影が落ちる。やっぱりバレていたのか、と思いながら奈月は言葉を探す。

「それは……怒っていたわけではないんです」

「本当に?」

 そう、怒ってなどいない。ただ、胸の高鳴りを持て余しているだけ。なんて、彼に直接言えやしないけど。

「ええ、本当に」

「……良かった、嫌われてしまったかと」

「嫌うって……私がですか?」

「あなたに嘘をついた形になりましたから」

 奈月の腕を離し、苦笑する侑李にドキドキしてしまう。怒っているのだと、勘違いされたこともだけど、嫌われたかと思ったなんて。まるで嫌われたくない、と言われているようだ。
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