俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

文字の大きさ
上 下
16 / 96

3-3

しおりを挟む
 仕事の話も無事に終わり、ホッとしたのもつかの間。風磨の誘いにより、奈月たちは小野原グループ系列のバーに来ていた。
 さすが大人な雰囲気のバーは物静かで、出されるカクテルも美味しい。だが、それを楽しむ余裕が今の奈月にはなかった。侑李がずっとこちらを見ているのはわかっている。だが、奈月はその視線からずっと意識的に逃げていた。
 途中でトイレに立った奈月は、自然と固まっていた身体をうーんと伸ばし、脱力して壁にもたれてため息を吐いた。
 商談の時からだが、明らかに侑李を意識してしまっている。たぶん、それは彼にもバレているだろうが、普通にしなければと思うほど上手くできない。彼を視界に入れなければまだ平静は保てているが、何となく視線を感じるとぎこちなくなってしまう。こんなことは初めてだ。
 だが、いつまでも戻らない訳にもいかない。そう思いながら、またため息を吐いた時だった。

「奈月さん」

「え? あ……」

 低い美声に呼ばれて反射的に顔を上げた。そこにいたのは侑李で、少し険しい顔でこちらに近付いて来るのが見える。

「大丈夫ですか?」

「はい。すみません、今、戻ります」

 ニッコリと営業スマイルを浮かべる。取引先の人に迷惑をかける訳にはいかない。それに相手は副社長なのだ。粗相があってはならない。

「待ってください」

 彼もトイレに行くのだと思い、道を譲ろうと奈月は彼の脇を足早に通り抜けようとした。だが、そんな彼女の腕を彼が掴んで止めた。驚いて彼を見上げる。

「……怒ってますか?」

「え?」

 予想外の言葉に驚き、顔を上げるとブルーの瞳揺れている。その表情が今にも泣きそうに見えて、奈月は驚いた。

「怒ってますよね?」

 もう一度聞かれて、首を傾げる。奈月が怒る要素などないように思うのだが。

「怒ってません」

「ですが、あなたは俺と目を合わせてくれなかった」

 ふっと彼の表情に影が落ちる。やっぱりバレていたのか、と思いながら奈月は言葉を探す。

「それは……怒っていたわけではないんです」

「本当に?」

 そう、怒ってなどいない。ただ、胸の高鳴りを持て余しているだけ。なんて、彼に直接言えやしないけど。

「ええ、本当に」

「……良かった、嫌われてしまったかと」

「嫌うって……私がですか?」

「あなたに嘘をついた形になりましたから」

 奈月の腕を離し、苦笑する侑李にドキドキしてしまう。怒っているのだと、勘違いされたこともだけど、嫌われたかと思ったなんて。まるで嫌われたくない、と言われているようだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

溺愛社長の欲求からは逃れられない

鳴宮鶉子
恋愛
溺愛社長の欲求からは逃れられない

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

冷徹上司の、甘い秘密。

青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。 「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」 「別に誰も気にしませんよ?」 「いや俺が気にする」 ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。 ※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

処理中です...