俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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 名刺を手に呆然としていると、侑李がコトン、とマグカップを置く音がした。

「ちなみに、香山さんのタイプはどんな男性なんですか?」

「え?」

 唐突な侑李の質問に、奈月は思わず固まる。コーヒーをすすっている彼の横顔からは真意が読めないが、聞かれたことにはきちんと答えなくては、と奈月は考える。
ただ、タイプと言われても、これまでまるで考えたことがない奈月にはこの質問は難題だった。これまで好きだな、と感じた異性が全くいなかった訳ではないが、そのタイプはバラバラだった気がする。

「声……かな……?」

「声、ですか?」

 考えあぐねた末、導き出された共通点がそれだった。思えばいつも、その人の声に興味を惹かれていた気がする。

「だいたい好きになるのは、落ち着く声の人かな、と。まぁ、いつもお付き合いには至りませんでしたが」

 そう、いつも良い声の人だな、で終わっていた。付き合うとかは奈月の中で、また別の次元の話だったから。
 奈月の答えを聞いた侑李が何か呟いた気がしたが、聞き取りきれず首を傾げる。すると、彼越しに目に入った時計が11時を刺そうとしていて、奈月はあっと声を上げた。

「すみません、私そろそろ……」

 立ち上がった奈月の視線を追った侑李は、すぐさま彼女の意図に気付き共に立ち上がる。

「送りますよ」

「いえ、そんな。そこまでご迷惑は……」

 お詫びをしに来たはずが、至れり尽くせりの接待を受けてしまったのだ。もうこれ以上は本当にお返しのしようがない。

「遅くまで引き留めたのは俺ですから」

 送らせてください、と車のキーを手に取った侑李は先立って歩き出す。その後を追いかけながら、どうにか断ろうと思う奈月だったが、結局何も言えず大人しく車に乗せてもらうことになった。

「何から何まですみません」

 シートベルトを閉めながら、平謝りだ。迷惑のかけっぱなしで、どうしたらいいか分からなくなる。だが彼はいえ、と微笑み、車を発進させた。

「小鳥遊さんって、ハーフですか?」

「いえ、クォーターです。祖母がフランス人で」

 沈黙に耐えきれなくて、初めて会った時から気になっていたことを聞いてみる。日本人離れした顔立ちと、ブルーの瞳。そのルーツを知って納得する。
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