俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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 言いながら作業の手を止めずにいると、もっと良く見ようとしたのか、小鳥遊の身体が背中に触れた。服越しにじんわりと伝わる人の温もりにドキドキしてしまう。

「便利なものがあるんですね」

「ええ。仕事柄、持っていて損はないです」

 営業先で飲み物を溢すシーンは早々ないと言えるのだが、もしもと言うことがある。そうした時に備えがあるかないかで、状況は変わる。このペンに何度そうした場面を助けてもらったか分からない。

「毎日使うものではないですが、あると本当に便利です」

 文明の利器というのは素晴らしい。ただ、そのせいで奈月の荷物はどんどん増えていってしまうのだが。

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「香山さんは、いつもこれを持ってらっしゃるんですか?」

「ええ。化粧ポーチに一本入れておけば、何かあった時に役立ちますから」

 このシミ取りペンの他に、裁縫セットも常備しているうちの一つだ。出番としては少ないが、あると助かる。お陰で友人や会社の人間から奈月のバッグは『四次元ポケット』と呼ばれている。

「これで大丈夫だと思います。クリーニングには出した方がいいと思いますが」

 シミ抜きは時間との勝負だ。シミは時間が経ってしまうと落ちにくくなってしまう。奈月のシミ抜きである程度目立たなくはなったので、クリーニングに出せば完璧だろう。

「ありがとうございます。助かりました」

 朗らかに微笑む小鳥遊に、微笑み返しながら奈月は化粧ポーチを片付ける。これで一応、恩返しはできただろうか。後はお暇するだけだ。

「じゃあ……」

「香山さん、お腹空いてませんか」

「え?」

 バッグを肩にかけ玄関に向かおうとした奈月の前に背の高い彼が立つ。何となく、わざと退路を断たれたように感じたのは気のせいだろうか。

「よければ、軽く食べて行かれませんか?」

「え、でも……」

「シミ抜きして頂いてる間に、軽く食べれるものを作っていたんですが、少し作り過ぎてしまいまして。食べるの手伝ってくださると助かるんですが」

 言われてようやく鼻を擽る美味しそうな匂いに気が付いた。街コンの会場で結構詰まんだつもりだったが、若干小腹が空いている。

「じゃあ……お言葉に甘えても?」

 似たような言葉をつい最近聞いたな、と思いながら小鳥遊を見上げると、ニッコリと笑い返される。
 イケメンの笑顔は心臓にわるいな、と感じながら奈月は彼に促されるまま洗面所を後にした。

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