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そこでようやく、指先が冷えていることに気付いた。こんなこと、慣れたものだと思っていたけれど、恐怖は感じていたようだ。今になって震えが沸き上がってくる。
「本当に、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です、ちょっと驚いて……」
自分で自分を抱き締めるように腕を回す。その様子に気付き、声をかけてくる彼に笑ってみせながら、深く息を吐いた。と、視線を下げたことで、彼が手にしているジャケットに目が止まる。
「あ、それ……」
折り畳んで手に持っているそれは、奈月がワインで汚してしまったジャケットだ。奈月の視線を追った彼が、ああと微笑む。
「あの、やっぱりクリーニング代を……」
「いえ、大丈夫ですから」
財布を取り出そうとするが、やんわりと止められる。だが、このまま何もせずに別れるのはどうなのだろう。たぶん、このまま二度と会わなくなる相手だ。だからこそ、何かせずにいられないと思ってしまう。
「なら、せめてシミ抜きをさせていただけませんか?」
「え?」
「あ、でも高いスーツは下手に手を出さない方がいいのかな……」
染み抜きで生地を痛めることもある。仕事柄、自分のスーツに付いた多少のシミなら自分で対処する術はあるが、奈月のスーツはそんなに高いものでもない。
すると、頭上から抑えた笑い声が聞こえてきた。その声につられて顔を上げると、彼が顔を背けながら口許に拳を押し当てているのが見えた。
「すみません、笑ってしまっては失礼ですね」
喉でクックと笑っている小鳥遊の顔が心底楽しそうで、思わず魅入ってしまう。でも、途端に恥ずかしさが込み上げて、頬がカッと熱くなった。
「すみません、アホなこと口走ってますね、私」
一人でグルグル考えてしまうのは奈月の悪い癖だ。会社で主任になってからはテンパることはなくなっていたというのに、恥ずかしい。
すると、奈月の前にグレーのジャケットが差し出された。見上げた先で、彼が微笑む。
「では、お言葉に甘えてお願いしても?」
「あ……はい。喜んで」
イケメンの笑顔は破壊力が抜群だ。ジャケットを受け取った奈月は、彼につられて笑みを浮かべた。
「本当に、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です、ちょっと驚いて……」
自分で自分を抱き締めるように腕を回す。その様子に気付き、声をかけてくる彼に笑ってみせながら、深く息を吐いた。と、視線を下げたことで、彼が手にしているジャケットに目が止まる。
「あ、それ……」
折り畳んで手に持っているそれは、奈月がワインで汚してしまったジャケットだ。奈月の視線を追った彼が、ああと微笑む。
「あの、やっぱりクリーニング代を……」
「いえ、大丈夫ですから」
財布を取り出そうとするが、やんわりと止められる。だが、このまま何もせずに別れるのはどうなのだろう。たぶん、このまま二度と会わなくなる相手だ。だからこそ、何かせずにいられないと思ってしまう。
「なら、せめてシミ抜きをさせていただけませんか?」
「え?」
「あ、でも高いスーツは下手に手を出さない方がいいのかな……」
染み抜きで生地を痛めることもある。仕事柄、自分のスーツに付いた多少のシミなら自分で対処する術はあるが、奈月のスーツはそんなに高いものでもない。
すると、頭上から抑えた笑い声が聞こえてきた。その声につられて顔を上げると、彼が顔を背けながら口許に拳を押し当てているのが見えた。
「すみません、笑ってしまっては失礼ですね」
喉でクックと笑っている小鳥遊の顔が心底楽しそうで、思わず魅入ってしまう。でも、途端に恥ずかしさが込み上げて、頬がカッと熱くなった。
「すみません、アホなこと口走ってますね、私」
一人でグルグル考えてしまうのは奈月の悪い癖だ。会社で主任になってからはテンパることはなくなっていたというのに、恥ずかしい。
すると、奈月の前にグレーのジャケットが差し出された。見上げた先で、彼が微笑む。
「では、お言葉に甘えてお願いしても?」
「あ……はい。喜んで」
イケメンの笑顔は破壊力が抜群だ。ジャケットを受け取った奈月は、彼につられて笑みを浮かべた。
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