俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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 いつものように、患者のこない診療所の待合室でゆったりとコーヒーを飲んでいると、珍しいことに診療所の扉が外から開いた。
 もしかしたら誰かの紹介で、新規の利用者がやってきたのかと思っていたら、洗濯カゴを持ったニュウだったので、

「何でそっから入ってくるのよ?」

 と、いつもは診療所の裏手から入ってくる彼女の行動に珍妙さを感じて言葉を発したが、にんまりと笑顔を浮かべる彼女の背後に立つ二人の少女を見て、思わず飲んでいたコーヒーを吐き出しそうになった。

「そ、その……お久しぶりでしゅ」
「……でしゅ?」

 恐らく彼女もまた緊張していたのだろう。ムリもない。あんな別れ方になったのだから。
 そこにいたのは、四日ほど前に【アルトーゴの森】で出会った少女たちだった。確かランテとリリノールと言った。

 噛んだことに思わず声を発してしまうと、カーッと顔を赤らめるランテ。隣に立つリリノールもまた「やっちゃったぁ」というような表情を浮かべている。
 得も言われぬ沈黙がしばらく続く……。

「……ま、まあ入れば?」
「は、はい……」
「お邪魔します」

 と、二人が診療所内へと入って来た。
 ニュウがコーヒーが飲めるか二人に聞いて、紅茶ならばということで、二人に紅茶を淹れるべく診察室の奥へと消えていく。奥には階段があり、そこが生活空間となっていてキッチンなどもあるのだ。
 三人が立ったまま。沈黙が何だか痛い。

(おいぃぃ……早く戻って来てくれぇぇ、ニュウ~!)

 表情には出さずに、できるだけコーヒーカップで顔を隠して祈りを捧げる。
 すると静寂を割ったのは、リリノールだった。

「改めまして、先日は助けて頂きありがとうございました」
「え……あ、いや。別にいいって」
「これ、そのお礼に」

 彼女が手に持っていたのは一つの袋。その中には多分菓子折りであろうものが入っていた。

「別に気を遣わなくて良かったのに」
「すみません。何だか変なお別れ方になってしまったので」
「あ……まあ、そうかな」

 それはリントにも身に覚えがあったので反論はできない。ただ菓子折りはありがたい。甘いものならニュウが好きなので。
 リリノールから袋ごと受け取って「ありがとな」と短く礼を言う。

 流れでチラリとランテの方を見ると、彼女もチラチラとこちらを窺っていた。
 ここは年長者らしく、先にきっかけを作るべきなのかもしれない。

「……あ~っと……前は悪か――」
「ごめんなさいっ!」
「……!?」

 先に謝罪とともに頭を下げられてしまった。

「すっごく不謹慎でした! 本当にごめんなさい!」

 ……何だかホッと胸を撫で下ろせた。張りつめていた緊張が一気に解けたかのように。

「……いいって。オレも言い過ぎたし。悪かったな」
「いいえ。病院内で言うようなことじゃなかった」
「……そうだな。それはこれから気を付けてくれればそれでいいよ」

 こうして謝れる女の子なのだから、きっと今後は間違わないようにしてくれると思うし。

「だからもう気にしなくていい。だから楽にしてくれ」

 そう言葉を投げかけると、「良かったね」とリリノールがランテに言い、ランテもまたホッとしたような顔を見せた。
 そこへタイミングを見計らったようにニュウが、トレイを持って現れる。その上にはカップが二つとお茶菓子の羊かんがあった。

「お待ちどう様なのであります! お二人とも、どうぞごゆっくりしてくださいませ~!」

 そう言って、彼女たちに待合室にある一つだけのテーブルへ誘導し、そこに座らせる。
 リントとニュウもまた、その近くのソファに腰を下ろした。

「あ、そうだニュウ。これもらったぞ」
「? それは何でありますか?」
「ふふ、それはね~、最近国で流行ってるカステラなんだよぉ~」

 リリノールの説明に、獣耳をピンと立てて顔を上気させるニュウ。

「おお、カステラ!? それはとてもおいしそうなのであります!」
「おいしいよぉ~」
「そのようなもの、頂いていいのでありますか!?」
「うん、食べてほしいなぁ~。今開けてみる?」
「いいのでありますか!?」

 リリノールとが袋に入っていた箱を取り出して開ける。


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