俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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「気になるお相手はいませんでしたか?」

「え……? ああ、そう、ですね」

 ぼぅっと見つめたままだったことに気付いて慌てて目を逸らす。小さい子とか、亜也のように可愛い後輩を微笑ましく見つめてぼぅっとしていることが多いと言われる奈月だが、男性に対してこうなることなど初めてだ。

「街コンは初めてのご参加ですか?」

「ええ……なんだか、慣れなくて……申し訳ありません」

「謝ることはないですよ。誰だって初めての時には戸惑うものです。私も仕事上、こうして皆様のお力になれればと努力していますが、自分のことになるとからっきしで」

「え?」

 見目麗しい男性の口から出た自虐的発言に、思わず彼の顔を見る。すると、苦笑いを浮かべながら、内緒にしてください、と唇に人差し指を立てる仕草をされて笑ってしまった。

「ごめんなさい、笑っちゃ失礼ですね」

「いえ、あなたの笑顔が見れてホッとしました」

 サラッと言われた殺し文句に、男性慣れしていない奈月はどう反応していいのか分からなくなる。ただ、赤くなった顔を見られまいと俯くと、彼は何故か腰を折り曲げて顔を寄せてきた。

「あなたの笑顔は魅力的ですね。だからこそ、悪い男に捕まらないよう注意しなくては」

「そんな……」

「参加者の中には、ごくまれに良くない方も混ざっていることもありますから、くれぐれもお気をつけて」

 声を潜めた彼の言葉に目を丸くする。いい声でなんて事を言うのか。驚いて顔を上げると、悪戯っぽく笑った彼と目が合う。そこで、ようやく彼が場を和ませるためにジョークを言っているのだと気付いた。

「こちらも本人確認等、気をつけているのですが、なかなか身辺調査まではできかねますので」

「ああ……」

 ため息混じりに言われて、奈月は頷く。
これだけの人数が集まれば、それはそうだろう。奈月だって、当日来られなくなった亜也の友人の代わりに参加した口だ。申し込みの際にはある程度の個人情報は入力するらしいが、連絡先程度で、あとは当日になってから。プロフィールカードを記入時に本人確認として免許証などの提示は求められたが、仕事のことなどは自己申告でしかない。つまり、極端な話、既婚男性が紛れ込んでいても本人が嘘を貫けばこの場でバレることはほぼないと言える。

「いいんですか、私にそう言うこと言っちゃって……」

 でも、それは開催側としてはマイナスイメージだ。知られてはまずいことではないのだろうか。
 ジョークだと思って聞いていたが、なんだか彼の口調も表情も真剣で途端に分からなくなる。

「そうですね」

 そう言って彼は困ったように笑う。その顔が色っぽいな、と思った時、街コンの終了を告げるアナウンスが流れ、会話はそこで終了した。
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