狐に嫁入りいたします。

鈴屋埜猫

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弐 【★】

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「っーーー!」

 チロチロと舌先で舐められたかと思えば、パクりと尖端を口に含まれる。唾液で満たされた口内で、男の舌先が尖端を掠めては時折吸い付かれた。その間も下から持ち上げるように胸は揉まれ、由奈は不快感に眉を寄せた。と、同時にもう片方の胸が痛いくらいに握り潰され、呻き声を上げた。

「っ、おい。お前、力加減ってものを……」
「すっげ……たまんねぇ……」

 頂を強めに吸い、ようやく顔を上げた正面の男は、もう一人の男に弄ばれ形を変える由奈の胸を見て眉を潜めた。だが、もう一人の男は完全に我を失っているらしく、聞こえていないらしい。

「これだから初めての奴は……」

 暗がりに目が慣れてきたためか、ため息混じりに言いながら体をずらす男の顔がようやく解った。見覚えのある顔に、由奈は驚いて目を見張る。
 集落の中でも人望があり、孝一郎の存在さえなければ次の地主になれたかもしれないと称される人物。しかし、彼はすでに嫁を取り、子供もいたはずだ。

「悪いな、コイツは童貞だからよ。でも、俺は優しくしてやるから安心しな。今まで襲った女だって、最後には自分から腰振ってたくらいだしよ」

 笑いながら事も無げに言う男に、由奈は背筋が冷えた。つまり、彼はこういうことを良くやっているのだ。嫁を取った後も、彼は集落の女たちからの人気が高かった。何故か同じくらいに人気がある孝一郎に対しては、由奈は疑問しか抱かなかったが、彼は違う。
 いつも皆に優しく声をかけ、嫌なことでも率先してやる人。だからこそ、地主の家に孝一郎が生まれるまでは次の地主にと押す声が多かったのだ。そんな人が、夜な夜な女の家に押し入り、こんなことをしていたなんて。

「お前、孝一郎の嫁になる話があるだろ。アイツの女になる前に、俺の種を仕込んどけば、どうなるだろうな?」
「っ?!」

 ガバリと両足を持ち上げられ、はだけた着物から太ももが露出する。由奈の足を肩にかけ、ニヤリと笑った男は、由奈の太ももの内側に唇を寄せた。

「心配するな。俺の種かアイツの種かなんて、周りは誰も分かりゃしない。現に、俺の種かもしれないガキなんざ、この集落にはごまんといる。それでも、誰も何も言いやしない。女の方が黙ってりゃ、分かりゃしないんだよ」

 ああ、そうか。と由奈は心が温度を失っていくのが分かった。この男が次の地主に選ばれなかった理由はここにあるのだ。だって、外面だけ見ていれば地主にふさわしいのはきっとこの男だ。だが、今の地主である孝一郎の父が息子を選んだのは、単に我が子が可愛いだけではないのだろう。きっと見抜いていたのだ、この男の卑劣さを。

「気持ちよくしてや……ぐっ!」
「兄貴? うぉっ!?」

 由奈の足を大きく開かせ、さらに奥を晒そうとしていた男の体が突如後ろに吹っ飛んだ。その呻き声と鳴り響いた大きな物音に、ようやく胸を揉む手を止めたもう一人の男も悲鳴を上げてどこかへ消える。
 押さえつけられた体が自由になったものの、状況が掴めずポカンとしていると、目の前に新たな人物が顔を覗かせた。

「大事ございませんかっ?」

 子供特有の高い声。心配そうに覗き込んで来た幼い少女の頭には、何故か動物らしい毛の生えた三角の耳が覗いている。
 大丈夫だと伝えるために頷いて見せると、安堵した様子の少女は、手首の拘束を手早く解いてくれる。上体を起こしながら口内の布を引きずり出し息を吐いた由奈は、目の前の光景に目を丸くした。

「え……?」

 顔を上げた由奈がまず見たのは、玄関先で伸びている男の姿。次いで辺りを見渡すと、右側の壁にもう一人の男が伸びているのが見えた。

「これ、あなたが……?」
不届ふとどき者はしました。あ、殺してませんよ? 殺生は禁じられておりますので」

 褒めてくれ、と言わんばかりに胸を張る少女は、十歳未満にしか見えない。そんな小さな体で大の大人、しかも男性を二人も伸すなど、あり得るのだろうか。いや、今、実際に目の当たりにしているのだが。

「お迎えに上がりました、由奈さま」
「……はい?」

 ニコニコと満面の笑みを浮かべる少女の背後で、先っぽが白く根本が黄色い尻尾が揺れる。これは夢だろうか、と思う由奈に、じんじんと痛む手首の感覚が現実だと教えていた。

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