狐に嫁入り?

鈴屋埜猫

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 あれよあれよと言う間に、風呂に入れられた私は、綺麗な白い着物を着せられていた。そして髪を結い上げられた後、被せられた白い布を見てはたと気付く。
 これは以前、近所に住んでいた綺麗な姉様が、嫁入りの際に着ていたものと似てはいないか?

「これって……」

「よくお似合いですよ」

 私の仕度を手伝った五人の女性たちが、口々に誉めてくる。しかし、その声は私の耳には届いていなかった。

「まぁ……お綺麗ですわ、由奈ゆな様」

「あ、の……これは……?」

「さぁさ。皆様、お待ちかねですのよ。参りましょう?」

 現れた彩野あやのさんはニコニコと私の手を取り、仕度部屋から出ていく。彼女に手を引かれるまま連れ出されたのは、奥にある座敷だった。

「おぉ……これはこれは……」

「いやはや、なんとも……」

「あの方が噂に聞く……」

 座敷に居並ぶ面々から、様々な言葉が飛び交う。しかし、私にはその内容よりも、彼らの姿が気になってしまった。
 何故ならそこにいる者は、色とりどりの着物を着てはいたけれど、どこからどう見ても狐にしか見えなかったからだ。

「由奈様」

 彩野さんに手を引かれ、狐たちの間を縫って更に奥へと進む。するとその先に、天井に頭が届かんばかりの巨体で、夕焼けのような紅い髪をした一人の青年が立っていた。

「由奈」

 彼が私に真っ直ぐに手を差し伸べるのと、彩野さんが私の手を離すのは同時だった。宙に放り出された私の手を、タイミングよく彼が掴むと、狐たちから一気に歓声が沸き起こる。
 そして、掴まれた手を引かれたことで、勢い余って巨体に体当たりした私の身体は、その腕にすっぽりと収まってしまった。

「ようやく……願いが叶った」

「え……?」

 頭上から降ってきた呟きに顔を上げると、唇に柔らかなものが押し当てられる。啄むように吸い付いてきたそれが、青年の唇だと分かったのは、何度か唇が重なった後だった。

「ふぁ……っ」

「おっと……」

 角度を変えて唇を吸われ、私の身体から力が抜けてしまったらしい。そのせいで立っていられなくなり、崩れかけた身体を、彼は逞しい腕で支えてくれる。
 周りはそんな私たちの姿にどよめき、次いでまた歓声が上がった。

「すまない、嬉しすぎて……許せ」

 私を心配そうに見下ろす青年の瞳に、何故か懐かしさを覚えた。しかし、それを確認する前に、私たちを狐たちが取り囲む。
 それからは何が何やら分からぬまま、お祝いを口にする狐たちにとりあえず応えながら、私は青年に肩を抱かれていた。訳も分からず、状況も飲み込めはしなかったけれど、彼の温もりに何故か私は安心してしまっていた。
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